1 ― 王都へ行きます
私の名前はエルリーナ=コルストル。田舎の男爵家の長女です。
茶色い髪に茶色い瞳。中肉中背。良く見積もっても10人中4番目位の美貌を誇る、平凡を絵に描いたような娘です。
そして唐突ですが、私には前世の記憶があります。
まあ、いきなりなに言ってんだっていう話ですが。幼いころから徐々に前世を思い出していったっていう感じで、今生と前世がごっちゃになることも無く『ああ、前はこんなだったわね~』くらいの感覚で過ごしております。
前世では『日本』という国で普通の女子高生をしていました。
それ以降の進学や就職の記憶が無いので、その頃に死んでしまったのかもしれません。
家族構成も父、母、姉、愛犬のタロ。恋人は無し、というか年齢イコール彼氏無し期間という感じで、前世でも平平凡凡とした人生のようでした。
こんな状態ですが、前世で読んだラノベのように、気が付いたらすごいチート能力を持っているとか、世の中を変えるような知識を記憶していたりとか、イケメンをメロメロにする料理技術があったりとかは、まったくありません。
普通の幼児から普通の少女に育って、今現在にいたります。
なんら前世スキルを活かせてはおりません。とゆうか、活かせる程のスキルを前世は持っておりませんでした。
だって普通の生活しているんだもん。と、あきらめ? 開き直り? しております。
さて、現在の私は馬車の中なのですが、昨日も馬車の中でした。一昨日も、そのまた前の日も、そしてそしてその前の前の日も。
そう。ずーと、ずーと、ずーと。馬車の中なのです。
私の住むシエルシャの国には、結構多くの決まりごとがありまして、その中の一つに貴族の娘が成人を迎える時には、王宮主宰のパーティーに参加し、国王様もしくは王太子様から1曲ダンスを踊っていただき、ダンスの後に国王様自らの手により成人の認定証を受け取るというものがあります。
この認定証というのがけっこう大事なもので、認定証を受け取っていないと、成人とみなされません。
未成年のままという扱いになり、結婚したり職に就いたりができないのです。
特に貴族の結婚は国王様の許可が必要なので、認定証は必ず頂いておかなければならないのです。
どんな下級貴族の娘でも、どんな僻地に住んでいようとも、どんなに貧乏で王都に行くだけのお金を工面するのがとっても大変だとしても、我が国に住む貴族ならば、守らなければならない決まりごとなのです。
ちなみに平民の皆さんは地元の教会の神父様から、お手軽に認定証は受け取ることができるらしいです。
私も先月15歳になり、成人を迎えました。よって、王宮主宰のパーティーへと参加するため現在王都へと向かっているのです。
わがコルストル男爵領から王都まで馬車で1カ月以上かかります。そう、我が家は超田舎にあるのです。
おかげでこの馬車の中で揺られてもうすぐ1カ月です。
馬車は古いし、村人感丸だしの人達は護衛には見えません。そんな馬車グループですから、貴族令嬢が乗っているなんて、盗賊どころか誰も思いはしないでしょう。襲われることはないです。安心して乗っていることができますが、来る日も来る日も馬車の中です。
お尻が痛かろうが、馬車酔いしようが馬車の中です。
王都への道のりで、村や街を通るとは限りませんので、宿屋に泊ることはありません。
宿屋に泊まるために、最短コースの道を外れることなど問題外だからです。
そんなことをしていたら、日程が長くかかることになり、雇っている御者や護衛の人達の人件費が大幅に増えてしまいます。勿論宿屋代もかかります。宿屋に泊まるなんて贅沢はできません。
トイレ休憩以外は、馬車の中で寝て起きて食事もしています。
文句など、経費を計算して貧血を起こしていたお父様相手に言えるわけがありません。
たった一人連れてきた侍女のララと二人、狭い馬車の中、お互い死んだような目になってきています。
王都では、お父様が学生時代にご学友だったという、エルシュワ子爵様の御屋敷に滞在させていただけるよう、お父様がお願いされています。
王都の宿屋のことはホテルというらしく、こっちでは考えられない程の高額な料金を取られるそうで、貧乏な我が家の為に、快諾して下さったというエルシュワ子爵様に感謝の気持ちがぬぐえません。
その上、パーティーでエスコートの無い私のために、エルシュワ子爵様御自らエスコートして下さるということなのです。ありがたすぎて、エルシュワ子爵様にお会いしたら、一番に拝ませていただこうと思っています。