7(1/2) ―来訪者
朝食を食べながらマリエッタは考える。
何時まで家出を続けられるか判らないが、慌ただしい王宮を抜けてきたのだから、
少しはゆっくりしたいものだ。
「マリエッタ様」
「なに?」
エリカの声に視線を動かすと、そこに会いたくない人物が立っていることに気がついた。
「げっ」
美しい容姿に似合わない言葉がマリエッタの唇から漏れた。
「おはようございます王妃様」
アーザイリイト竜王国の宰相、グレンツ=ソラリアットだ。
白い物が混じる濃い灰色の髪を綺麗に後ろへと撫でつけており、
文官の最高位を表す濃紺の制服に身を包んでいる。
グレンツは、にこやかにマリエッタへと慇懃に礼をした。
しかし、こめかみに“怒りマーク”が浮かんでいるのが、マリエッタには見えた。
「とても気持ちのいい朝でございますね。
私はこちらには初めて伺いましたが、王都から少し離れているだけあって、
緑も多く気持ちが和みますね」
怒りマークを浮かべているのに、顔はにこやかだ。
それに対して、オドオドと上目使いの王妃は答える。
「おはよう、グレンツ。えっと、あの……。ごめんなさい……」
「おや王妃様、なにを謝っていらっしゃるのですか。
王妃様たるもの臣下に対して謝罪などなさってはいけませんよ」
「そんなに怒んないでよーグレンツ。
いきなり家出したのは悪いと思っているわ。
でも、勢いっていうか。タイミングがそうなっちゃったっていうか……」
「ほう。勢いですか……。
昨日いきなり王妃様が家出されると手紙一枚渡された私に納得しろと」
「そ、そりゃあ、私としても国の式典中だし、
今の時期はやめとこうと思ってたんだけどぉ、ちゃんと思ってたんだけどぉ、
ちょっとカッとなっちゃったっていうか……。ごめんなさい。迷惑かけてます」
マリエッタはシュンと項垂れる。
「公務の方は陛下と部下たちが王妃様の代わりを務めておりますので、
今のところは大丈夫でございます。
王妃様が別宅を購入されていたのは存じておりましたが……。
お心を決められたのですか?」
グレンツはこめかみに浮かべていた怒りマークを消し、
今度は心配そうな顔をマリエッタに向ける。
気が付けば、居間にはマリエッタとグレンツ以外誰もいない。
シンとした静寂がマリエッタを包む。