●美魔女な龍王妃は家出中●

8(2/3) ―【番外】家出用の家での、日がな1日

「いったい何が……」
2階の寝室にいたマリエッタは、侍女達の悲鳴が上がった時に、何事かと1階へと降りてきていた。
しかし、すぐに問題に気づき、騒ぐほどかと思っていたら紅薔薇隊が突入してきた。
食堂は多人数でごった返すことになった。
マリエッタは食堂に入るのに躊躇ってしまっていた。

「こないでぇっ、こっちに来ないでっ」
「いやーーー」
「お、お前達っ。怯むな。今までの辛い訓練を思い出せっ」
「はいっ、隊長っ。うわあぁー」
「ばかものっ。逃げるなっ。ぎやあぁっ」
侍女の悲鳴と共に、紅薔薇隊の声も聞こえる。

「えーっと」
それほどのものだろうか? マリエッタは頬をかく。
そろそろ終息させるしかないだろうな……。

「エリー。それを貸して」
食堂に入ることも出来ず、自分の近くで怯えて立ち尽くしている侍女のエリーから、手に抱えている箒を取り上げる。
エリーは他の場所の掃除をしていたために、問題に巻き込まれないで済んでいたようだ。

「マ、マリエッタ様、いらしていたのですか」
「まあねぇ、この騒ぎじゃあねえ」
マリエッタは箒を手に、スタスタと食堂の中へと入って行く。

「マリエッタ様っ、なぜこのような場所へいらしたのですかっ」
「マリエッタ様っ、危のうございます。どうか安全な場所へっ」
「誰かマリエッタ様をここから、うわあっ」
皆がマリエッタを、この食堂から連れ出そうと近づこうとするのだが、問題の動きの予想がつかず、動けないでいる。

マリエッタは紅薔薇隊員達を手で制し、問題へと目を向ける。
壁を伝い俊敏に逃げ回る黒くて艶々とした大ぶりのヤツに。
ヤツは油断すると、その背中に隠した羽で空を飛びまわる。
そうなる前に留めを刺す必要がある。
マリエッタは今にもテーブルの下へと逃げ込もうとするヤツに箒を叩きつける。

“バシィッ!”
「「「きぃやあぁーっ!」」」
悲鳴が至る所から上がる。
そのままマリエッタは箒でヤツの死骸を掃出し窓から掃き捨てる。


マリエッタに付いている者達は、所詮、上級の侍女や女官達で、身分の高い貴族の娘達だ。
紅薔薇隊の隊員達さえも、いいとこの嬢ちゃん達だ。
黒い虫など見たこともなかっただろう。

この家出用の家は緑の多い田舎に建っている。
虫の一匹や二匹、出てくるだろう。勿論これからも出てくるだろう。
辺鄙な村の農家の娘だったマリエッタにすれば、黒い虫など見慣れたものだが、毎回この騒動では大変だ。
うーん、これからどうするべきか。
頭を抱えるマリエッタだった。