8(3/3) ―【番外】家出用の家での、日がな1日
居間の騒動にひと段落つき、脱力したマリエッタは寝室へと戻って来た。
この小さな家には1階に台所と居間。2階には2部屋しかない。
2部屋といっても扉続きなので、実質は1部屋みたいなものだ。
そのうえ、この家の寝室は狭い。
王宮の寝室と比べる気はないが。
入ってすぐにベッドが置いてあり、横に小さめな物入れ。それだけでこの部屋は、ほぼ一杯といえる。
ベッドは少し大き目のセミダブルだから、なおさら部屋が狭く見える。
部屋の中ではベッドが主役のようなものだ。
そしてその主役の上には、何故かガリーア大陸の覇者ともいえる竜王が乗っており、ワクワクした顔をしてマリエッタを見ている。
「何でいる」
思わず低い声がマリエッタから漏れる。
「大じょーぶだよー。今日はちゃんと、お風呂に入って来たよー」
キラキラした目を向ける竜王は、そこいらの美少女が裸足で逃げ出すほどには可憐だが、マリエッタには通用しない。
「だってー、ずっとマリちゃんに会ってないんだよ」
「今朝、ここから出勤(?)して行ったでしょ」
「一人で寝るのなんてヤダー。マリちゃんと会えないなんてヤダー」
普通の男なら、このダダをこねる美少女に鼻の下を伸ばすのだろうが、相手がマリエッタなら、怒りを買うことになる。
「オホホホ。この我儘な国王様をどうしてくれようかしら」
「いだい~。マリぢゃん、いだい~」
マリエッタはジュライアーツのほっぺたを、取りあえず抓ってみた。
「ぼ、僕、帰らないから。マリちゃんと一緒にいるんだもん」
「もん……」
どこの国の王様が”もん“なんて使うんだよ。
あー、うちの国王かー。
それも200歳超えているやつかー。
ウンザリと竜王を見ていたマリエッタだったが、徐々に身体がザワザワとしだした。
身体の中心から違和感が湧いてくる。
どうしよう。今、具合が悪くなると、ジュライアーツに隠しきれない。
「マリちゃん、どうしたの?」
「……なんでもないわ」
ジュライアーツがベッドの横で立ち尽くすマリエッタに不審がり、声をかける。
身体の中心がザワザワと落ち着かない。
身体の変調はだんだんと強くなってくる。
だが、いつも襲われる気分の悪さとは違う。
この見慣れた美少女もどきを見ていると、それが酷くなる。
「アーツ……」
「なに?」
「犯(や)らせろ」
「へ?」
美しい貴婦人であるマリエッタから発せられることは絶対にないであろう言葉を聞いて、ジュライアーツは固まる。
ジュライアーツは200歳を超えてはいても、力の強い竜人としては、まだ若い。
しかしマリエッタは人間の40代。
若さのピークは過ぎている。体力も若い時ほどはない。
だからこそ二人の夫婦生活は、マリエッタの負担を考えて、そんなに頻繁とはいえない。
昨晩、夫婦生活を営んだ今日、まさかマリエッタから、そんな言葉を聞かされるとは思ってもいなかった。
「身体がザワザワすると思ったら、ムラムラするの間違いだったわ。
アーツを見て、ムラムラするのよ」
「えっと、マリちゃん……」
「え、なに、嫌なの」
「う、ううん。嫌なわけないよ。でも、マリちゃん、あの、その、昨日もしたし。
僕は全然、全然オッケーなんだけど。ていうか嬉しいんだけど、でも、その、マリちゃんの身体は大丈夫なのかなって~」
この妖精のように可憐な夫は、ごちゃごちゃと煩い。
今も両手を拳にして口元に持っていき、ウルウルとこちらを見ている。
(どこのアイドルだよ)
マリエッタはベッドに乗り上げると、上半身を起こした状態の夫のバスローブの胸元に手をかける。
「マ、マリちゃん……」
ニヤリと唇の端を上げて嗤うと、いっきに胸元を大きく開く。
「きやぁっ」
さっきの侍女達よりも、よっぽど乙女らしい悲鳴が夫の口らか漏れる。
「じゃあ、大人しくしていて」
夫の胸に唇を寄せながら、マリエッタは夫をベッドへと押し倒していくのだった。