9(2/2) ― 来訪者、再び
マリエッタは家出用の家で寝こけている夫を放って、王宮へと向かうことにした。
王宮へ行くには、マリエッタならば馬車で一時間半かかるのに対して、翼のあるジュライアーツはひとっ飛びだ。気にかけてやる必要はないだろう。
軽く身支度をして家をでると、そこは夢のレビューの舞台……ではなくて、紅薔薇隊が全員整列をしてマリエッタを待っていた。
「さあ、お手をどうぞマリエッタ様」
隊列の最前にいたオスカルーンがマリエッタの前へとやってくると、片膝をついて手を差し出す。
なんと、口には一輪の薔薇を咥えている。
(誰だよ、言いやがったのは!)
キラキラしている。ものすっごくキラキラしている。
ゴージャスな金髪をたなびかせ、甘いマスクには笑みを湛えている。
女性とは、とうてい思えない王子様っぷりだ。どこぞの国王に、ぜひとも見習わせたいものだ。無理だろうけど。
女の子なら即落ち3コマだな。
マリエッタはおばちゃんだから、そうはならないけど。
マリエッタはオスカルーンに右手を預け、馬車へとエスコートされる。
マリエッタが無事に馬車へと乗り込むと、オスカルーンはマリエッタへと薔薇を手渡し、馬車の扉を閉め、深々と一礼の後、自分の馬へと向かう。
騎馬でマリエッタの馬車を警護するのだ。
あまり目立つことが好きではないマリエッタの希望を取り入れ、馬車には王家の紋章が取り付けられてはいない。
しかし、贅を尽くされた車体は、マリエッタを表す深紅。その馬車を全員騎馬で紅薔薇隊が囲んでいる。
一行を目にした国民は、馬車の中に誰が乗っているのか一目瞭然といえた。
暗黙の了解だ。
馬車はゆっくりと走りだすと、一路王宮へと向かうのだった。