10(2/3) ― 説教をされるのは国王
「陛下。陛下は何故“竜魂の儀”をマリエッタ様と行われないのですか?」
「竜魂の儀……」
ジュライアーツはグレンツの言葉に応えようとはしない。
ワザと知らない振りをしていたことを突き付けられたようだとジュライアーツの表情を見たグレンツは感じる。
“竜魂の儀”は、竜人が一生に1度行う“番”(つがい)を定める儀式だ。
竜人は腕や背中など、身体の何カ所かに鱗がある。
その鱗は爪に性質が似ている。取ろうと思えば取れる。ただ生爪を剥がすように、激痛を伴う。だが時間は掛かるが、また再生する。
しかし、胸の中央、みぞおちの少し上に他の物より色の濃い鱗が一枚ある。竜魂と呼ばれるものだ。
他の鱗と竜魂だけは違い、1度取れてしまうと2度と再生しない。
竜魂は竜人の力の塊といわれている。
本人の竜気が濃く詰まっているのだ。
しかし、竜魂を取ったからといって、竜人は力が無くなるわけではないし、竜魂がないと寿命が短くなったりもしない。
竜人同士で番になるとき、その竜魂を交換して飲み込む。
大概の者たちは結婚式に大勢の招待客の前で、その儀式を行う。
“竜魂の儀”と言われているものだ。
竜人同士でも力の強さは異なる。
そして寿命もだ。
力の強い者は長寿だが、グレンツのように力の弱い者は人間程度しか生きることはできない。
そのため同じ時を生きるために竜魂の儀を行う。
弱い相手の竜魂を体内に入れても何ら影響は無いが、強い相手の竜魂を体内に入れると、竜魂を通じて相手の竜気を受け取ることになるのだ。
体内に入ってくる竜気は自分の竜気と混じりあい、相手と自分の竜気の強さが同じになる。
同じ強さの竜気を持つことができる。
竜魂の儀を行った者同士は、同じ竜魂を持つことになり、同じ時を生きることになる。
だからこそ竜魂の儀を行った者達を“真の番”と呼ぶ。
「竜魂の儀を行えば、番(つがい)同士は同じ時を生きることができます。老いも同じになる。
陛下、竜人と人間は寿命が違う。
マリエッタ様は人間。人間の寿命は短かすぎる。
私たちは、マリエッタ様に長く生きて欲しい。陛下もそうでしょう?
それなのに何故竜魂の儀をされないので「だめだっ!だめだ、だめっ。絶対に駄目っ。
マリちゃんとは“竜魂の儀”はやらないっ!」
ジュライアーツがグレンツの言葉を遮る。
「陛下、なぜなのですかっ!」
余りの声の大きさと、ジュライアーツの必死な形相にグレンツは驚く。そして、怒りが湧く。
あれ程、愛していると公言しているマリエッタに、なぜ竜魂の儀を行わないのか。
理由が判らないからだ。
マリエッタの苦悩を知るグレンツにしてみれば、ただ否定する竜王を理不尽と思ってしまうのだ。
「……マリエッタ様と竜魂の儀を行わない理由をお聞きしても?
陛下はいつもマリエッタ様のことを“真の番”と仰っていたのに。違うのですか?」
グレンツの声は低い。
相手は自分の主君であり、逆らえば首を刎(は)ねられても文句は言えない相手だ。
それでもグレンツは聞かずにはいられない。
「マリちゃんは僕の魂の番だよ。僕にはマリちゃんしかいない。
でも絶対に竜魂の儀を行うことはできない」
「なぜですか。判りません」
ジュライアーツは首を強く振り否定する。
そして、ゆっくりと反らしていた瞳をグレンツに向ける。
その瞳には、強い意志が籠っていた。