12(1/2) ― 親衛隊
アーザイリイト竜王国の親衛隊は3つの隊からなる。
竜王ジュライアーツ付きの『白銀隊』
竜王妃マリエッタ付きの『紅薔薇隊』
そして、親衛隊の事務処理を一手に引き受けている『事務隊』だ。
白銀隊は、言い方は悪いが、脳筋の集まりだ。
全ての事柄は、拳(こぶし)と剣で解決できると思っているふしがある。
そして、そこまででは無いにしろ、紅薔薇隊にも、そのきらいはある。
だからこそ、剣はいくらでも振り回せるが、ペンを持つことが出来ない
――持った瞬間にへし折るか、持った瞬間に脳みそがスリープ状態になる。
そんな隊員達のために事務隊は存在する。
と、周りの者達は思っているし、そう思わせてもいる。
しかし実際の事務隊の仕事内容は多岐に渡る。
表向きの事務仕事は勿論だが、調査、潜入、暗殺など、秘密裏な仕事を請け負っているのだ。
事務隊の詳細は、竜王陛下と事務隊隊員たち以外は誰も知らない。
親衛隊の統括隊長を務めるガイロンでさえ、事務隊の隊員が何人で構成されているのかすら知らないし、現在どんな仕事をしているのかも知らない。
事務隊がどんな権限を持っているかも判ってはいない。
親衛隊用の会議室には、現在6人が集まっている。
事務隊からは事務隊隊長ザガーリオと副官のシシオス。
白銀隊からは、ガイロンと副隊長のゼン=サイデン。
紅薔薇隊からは、オスカルーンとアンドレーン。
この頃、頻繁にマリエッタが襲われることについての話し合いがなされていた。
「賊のことは何か判りましたか?」
オスカルーンがザガーリオへと問いかける。
自分の主が襲われ、一番腹立たしく思っているためか、席につく早々口火を切る。
白銀隊と紅薔薇隊は、竜王と竜王妃の身辺警護が主な役目である。
警護対象を離れて、検証や調査を行うことはできない。
後処理や犯人捜査などは、全て事務隊に任せることになる。
「まあなぁ、判ったことといえば、賊は全員が人間だ」
答えたザガーリオは人間で言えば50代後半。
少し長めの濃い茶色の髪を後ろで1つに縛っている。目立たない容姿をしているが、榛色の瞳は一切の感情を表してはいない。
「また人間? いくらマリエッタ様が人間とはいえ、竜人の紅薔薇隊が守っているのに、襲うことができると思っているのかねー、わけ判んなーい」
ゼンが呆れた声をだす。
「前回も、いや前々回も人間だったな」
「はい。この3か月間でマリエッタ様が襲われた回数が5回。その全ての賊が人間でした」
ガイロンの呟きに、事務隊副隊長のシシオスが答える。
「おかしいだろう。多すぎる」
「ああ。おかしい。
今迄、マリエッタ様が襲われることはあった。だか、こんなに頻繁に襲われるのはおかしい」
「いったいどうなっているんだ?」
「おかげで、竜王様の怒りがハンパない。ピリピリしていて、チョー迷惑」
「どうせなら、陛下を襲ってくれればいいのだが」
マリエッタへの心配の言葉の中に、いただけない言葉が混じっている。
しかし、白銀隊の隊長と副隊長の言葉は、言わないまでも誰しもが思っていることだ。