13(2/3) ― マリエッタの浮気
「ふーんそうなの。アーツは私のことを、そんなふうに思っていたの」
マリエッタの低い声に、ビクリとジュライアーツの肩が跳ねる。
「え、あの……」
「残念だわ。アーツってば、私のことを全然信用していないのね」
「ち、違うし。マリちゃんのことは、ぜんっぜん、ホントに、まったく疑ってなんてないし」
「あら、私が浮気したって、疑っていたのでしょう」
「あの、違くて、あの、疑うとかじゃなくて、あっ、あの……」
上目遣いでマリエッタを見ているジュライアーツの声は、だんだんと小さくなっていく。
「フフフ。アーツとは、じっくり話し合うことが必要みたいね」
「マ、マリちゃん……」
「あら、違うわね。私は冤罪を着せられたのだから、アーツにお仕置きしなきゃ」
「え、お仕置き? あの、あの……」
ジュライアーツは、妻のニッコリと妖艶に笑う姿に、自分は大きな失敗をしでかしたことを悟った。
悟ったところで、すでに遅すぎたのだが。
「アーツを今から虐めるわ」
マリエッタは、座っていたソファーから、すっくと立ち上がると、優雅に宣言をする。
凛とした立ち姿は、それだけで、見惚れるほどに美しい。
実はまだ、夫の頬を抓ったままだが。
「畏まりました」
侍女達どころか、紅薔薇隊の隊員達も、全員が一礼すると、部屋から出ていってしまった。
まるで訓練したかのような、一糸乱れぬ素早い身のこなしだった。
残ったのは微笑む妻と、彼らが出ていってしまった扉を、一緒に行きたかったと、諦めきれずに見つめ続けている夫だけだ。
「マ、マリちゃんゴメンね。でも、僕どうしていいか分からなくて……」
「もうね、時間が無いのよ」
「え?」
「アーツは男性だから、舞踏会に出るための準備に、そこまで時間はかからないでしょう。
でもね、私はお風呂にも入らなきゃならないから、随分と時間がかかるのよ。
今からだと、せいぜい2時間あるかないかだわ」
「そ、そうなの?」
「そうなのよ。2時間で何発いけるかしら?」
「な、何発って、どういう……」
マリエッタが何を言っているのか、理解していくごとに、ジュライアーツの声は段々と小さくなっていく。
マリエッタは嫣然(えんぜん)と微笑むと、ベロリと唇を舐めるのだった。