2(1/3)―家出表明
「あったまくるーっ!」
自室に戻ったマリエッタは扉を閉めるなり、ずんずんとソファーへと進み、その上にあったクッションを足元へと投げつける。
「判ってる。判ってるわよっ。自分がババァってことぐらい判ってるわよーーーーっっ!!」
また違うクッションを放り投げる。
マリエッタの夫は竜人。というかこのアーザイリイト竜王国の7割以上の国民が竜人である。自分の横で他国の者たちにふんぞり返って対応しているのは、自分の5倍は長生きしている竜人なのだ。
しかし、外見でいくならば20代前半の見目麗しい青年。そして自分はその隣に座る40代のおばちゃんだ。
いくら20年以上竜王の妻を務めているとはいってもマリエッタは人間。それを変えることは出来ない。
竜人とは違い毎年毎年、年を取るのだ。
女官や侍女が粉骨砕身でマリエッタのアンチエイジングに尽力しているが、そんなもの自然の摂理の前には無力だ。
この建国記念の祝賀に大陸中の国々の代表者が招待されている。
近隣の国や付き合いの密な国ならば、竜王夫婦のことを知っているが、竜王国の事情に疎い国は― もう駄目だ。不愉快極まりない視線と態度にマリエッタは毎度うんざりする。
まず思われるのは、無理やりの政略結婚。
親子ほど年の離れた夫婦を、それも王妃の方が年上となると、恋愛結婚などと思うものはいない。
竜王は嫌々ハバアを娶らされていると思われ、竜王へ同情の視線が投げかけられる。
次にババアが妃なら、私にもチャンスがあると思う女性陣の視線が飛んでくる。
見目麗しく、強大な権力を持つ竜王国の国王が、なぜいつまでも政略結婚のババアを隣に座らせておくのか。自分の方が若く美しく、王妃の座に相応しい。
そう思う女性がゴロゴロと出てくるのだ。
今さっきも自分の実家があるケノン公国の謁見を受けていたが、ダイアンザイス公に付いて来ていた娘のリリイアナ姫の態度は露骨だった。
年のころは17、8。一番の売り時だ。自分の美貌に相当自信があるのか、胸をできるだけ開けたドレスをこれ見よがしに纏っていた。
最初っから最後まで視線はジュライアーツにヒタと定められ、その視線にはピンクの色が付いているようだった。
明日からの舞踏会やパーティーは女性陣によるジュライアーツ争奪戦がさぞ白熱するだろう。