14(1/2) ― 舞踏会にて ①
今晩は王城で舞踏会が開催されている。
長い祝賀行事も、そろそろ終わりが近づいてきており、大掛かりな催し物は、これが最後となる。
招待されているのは各国の国主夫妻と主催国であるアーザイリイト竜王国の上級貴族たちだ。
大広間には他の国では見ることが叶わないであろう、色とりどりの花々が至る所に飾られ、かぐわしい香りを漂わせている。
招待客達は、それぞれが談笑していたが、竜王夫妻の入場に慌てて居住まいを正した。
ガリーア大陸の覇者である竜王ジュライアーツは、傍らに正妃マリエッタを伴い、中央奥にある玉座へと進む。
竜王の美しさは、道を開け両側で頭を垂れる全ての者たちの感嘆のため息で分かる。
身長はそんなに高くは無い。隣に並ぶ竜王妃より拳1個分ほど高いだけだ。
細身で、しなやかな身体は、あまり男性らしさを感じさせない。
銀の長い髪は、自身の腰まであり、今は緩く後ろで一つに束ねられている。
瞳は紫。
しかし、銀色の星がいくつも入っており、神秘的な輝きを宿している。
顔立ちは端正の一言に尽きる。表情が無い時は、最高の彫刻を見ているようだ。だが、人の手でこれ程美しい彫刻を造ることは叶わないだろう。
隣で竜王に手を引かれている正妃は美しく、上品な佇まいをしている。
が、竜王より若干……かなり年上に見える。
竜王が二十代前半の年頃に対して30代。それも後半に見える。
髪は濃い紅色。豊かな髪は全て結い上げられ、見事な宝石が幾つも煌めく髪飾りで留められている。
瞳はやや吊上がり気味だが、それが凛とした強さを表しているようだ。
肌は滑らかでシミ一つ見当たらない。
背筋が伸び、美しい所作が女性らしさを醸し出している。
噂では、この竜王妃はアーザイリイト竜王国の実権を一人で握っているらしい。
この大国の権力を掌握し、竜王を傀儡とし、裏で糸を引いている。
この竜王妃に逆らえば、その国は一瞬で消滅してしまうだろう。
それ程の権力と実力を兼ね備えているのだ。
竜王妃は、その権力に物を言わせ、年若いジュライアーツを無理やり王配にしたのだとされている。
親子ほども年の離れた女性に召されたジュライアーツが、どれほど嫌がり、悲しんだことか……。
このガリーア大陸に君臨するアーザイリイト竜王国の国王と呼ばれながらも、その実はただの囚人なのだ。
まことしやかに語られる噂話は、そこかしこで流され、実情を知らない者達は、竜王に憐憫の視線を送り同情する。
大広間の出入り口の脇に立つオスカルーンは眉をひそめる。
竜王夫妻に害なす者がいないか、鋭く視線を走らせてはいるさなか、そこかしこで噂される囁きが嫌でも耳に入ってくる。
いったい誰が言い出すのか、これらの噂話は、いつのまにか広がっている。
ヒソヒソと、いかにもな顔をして、噂話をしている者達には、苦々しい思いしかない。
オスカルーンは竜王夫妻に目を向ける。
竜王夫妻は、今まさに玉座に座ろうとしていた。
取り澄ました竜王の表情の機微は、親しいものにしか見分けられないだろうが、今の竜王は、非常に機嫌がいいようだ。
目の端がうっすらと赤く染まり、色気も滲み出ている。
「虐められたのが、そんなに嬉しかったのですね」
ちょっと遠い目をしてしまう、オスカルーンだった。
マリエッタが“いじめる”宣言をした時、オスカルーンも竜王妃の私室で警備をしていた。侍女たちと共に、部屋を後にしたが、本来だったら、護衛の紅薔薇隊が、そんな簡単に護衛対象者の元を離れることは無い。
いくら竜王が一緒にいるといってもだ。
それなのに、マリエッタから離れ、部屋を後にしたのは、ジュライアーツから追い出されたからに他ならない。
マリエッタは人間で竜気には気付かないようだが、マリエッタが”いじめる”宣言をした瞬間、ジュライアーツの竜気が一気に強くなった。
溢れだしたと言った方が正しい。
まるで結界が部屋を覆っていくように、竜王を中心に広がっていき、自分達は部屋を出て行ったのではなく、部屋から弾き出されてしまったのだ。
こうなると誰一人、部屋に入るどころか、近づくことえさできない。
それほどまでに、ジュライアーツはマリエッタに虐められたかったのだろう。
「まあ、陛下は何であろうと、マリエッタ様に構ってもらえさえすれば幸せなのだから」
フフフ、とオスカルーンは小さく笑った。
ハッと気づくと、すぐに周囲に険しい目を向け、警備体制へと戻りはしたが。