17(1/2) ― マリエッタの回想 ②
マリエッタはアーザイリイト竜王国という聞いたこともない国に連れてこられた。
ジュライアーツはその国の王様だというが、そんなことマリエッタには関係なかった。
いきなりマリエッタの部屋という、広くてキラキラした所に詰め込まれ、ヒラヒラフワフワしたドレスを着せられた。
何人もの侍女にかしずかれ、マリエッタは何もせず、ただ座っているだけになった。
しかし、侍女達は誰一人マリエッタと話しをしてはくれない。
ただ、決められたであろう仕事をこなすだけで、マリエッタのことは一切無視している。
「マリちゃん、おはよう」
今日も朝から両手に溢れるほどの花を抱えたジュライアーツが、マリエッタの部屋へとやって来る。
侍女達は、さざ波のように、いつの間にか部屋から退出している。
「ねえ、いつになったら私は家へ帰れるの?」
両手を組み、仁王立ちのマリエッタは、ニコニコと嬉しさ全開の竜王を睨みつける。
「マリちゃんを帰してあげられなくて、ごめんね。
でもマリちゃんがいなくなったら、僕どうしたらいいのか判らないよ……」
今まで幸せそうに微笑んでいたくせに、急にジュライアーツがその美しい瞳に大粒の涙を浮かべながらマリエッタへと縋りつく。
何が腹立たしいかというと、マリエッタより先にジュライアーツが泣き出すということだ。
しくしくベソベソと、すぐにジュライアーツは泣き出す。
マリエッタが怒ると泣く。
マリエッタが喚くと泣く。
マリエッタが懇願すると泣く。
マリエッタが殴っても、蹴っても、決して反撃はしないし文句も言わない。そしてマリエッタが泣くよりも先に泣くのだ。
大きな国の国王様だというのに、マリエッタの前では、いつもメソメソ泣いている。
おかげで被害者のマリエッタは、まだ泣いたことがない。
「マリちゃんは僕のお嫁さんだから、僕のそばにいてほしいんだ」
今まで泣いていたくせに、今度は頬を染め、もじもじと恥らっている。
ムカつく。
「会ったばかりの人をいきなり拉致しておいて、何がお嫁さんよっ!」
「だって、マリちゃんは僕の運命の番(つがい)なんだよ。やっと会えた番なんだよ。もう一生会えないかもしれないと思っていたのに、僕嬉しくって」
「はぁ、番って何よ?」
「マリちゃんが僕のお嫁さんだってことだよ」
「訳分かんないし」
「やーん、マリちゃんホッペ引っ張らないでぇ」
マリエッタは田舎暮らしの少々粗雑な少女で手もよく出る。
ジュライアーツの柔らかく美しい頬を両手で引っ張り、凄まじい美形を残念な美形へと変貌させている。
マリエッタはジュライアーツを嫌ってはいない。
誘拐の実行犯のジュライアーツだが、いつもマリエッタに謝り、許しを乞う。
どうにかマリエッタに好かれようと、へんな努力をしている。
憎めないのだ。