17(2/2) ― マリエッタの回想 ②
「マリちゃん、マリちゃん」
短い付き合いだが、こんなキラキラした目をしたジュライアーツが話しかけてくる時は、ろくなことが無いことを、マリエッタは学習した。
「なに?」
「あのね、あのね、僕、マリちゃんのこと、凄く好きで、一生好きって分かっているんだけど、マリちゃんに、そのことを知ってもらいたくてぇ」
「えー、口だけで言われてもねぇー」
マリエッタの超オザナリな返事に、ジュライアーツは至極真面目に頷く。
「うん、そうだよね。だから僕、呪術を調べたんだ。
とっても遠いんだけど、東にニャポーンっていう島国があってね。そこは古(いにしえ)の国って言われていて、色々な呪いや祝福の秘術があるんだって」
「呪術?」
「うん。僕がマリちゃんのことを一生好きで、他の人を好きにならないって証明するために、呪いを掛けようと思って」
「はぁ、何よそれ、本気で呪術とか信じているの?」
「まかせてっ!
この呪いはね、すっごく力が強い術で、一度呪いがかかったら、一生解くことができないんだっ」
「なんか、恐ろしげね」
ジュライアーツが、また変なことを始めた。
マリエッタに好かれたいのは、重々分かってきたが、その方向性が混迷しているし、人を巻き込まないでほしい。
マリエッタは、そつとため息を吐く。
「えっとね、この呪いはね『おにぎりゲンマイ』って、言うんだよ」
「は? おにぎり」
たしか“おにぎり”とは、食べ物ではなかったか。
どっかの国の、田舎の郷土料理でそういう名前を聞いたことがある。
「うん。誓いをたてて“おっにぎりゲンマイ、嘘ついたら、針千本飲―ますっ”って、呪文を唱えるの。誓いを破ったら千本もの針が入った、玄米おにぎりを食べさせられる呪いなんだって。
怖いでしょ。絶対誓いを破れないよねー」
「あー、まー、うん。針入りの玄米おにぎりって、身体にいいのか悪いのか、怖いわねー」
「でしょでしょ。僕マリちゃんの為なら、呪いを受けるよ、受けちゃうよ!」
「あー、まー、うん。頑張ってねー」
マリエッタの、超オザナリな返事が、超イイカゲンな返事に進化した。
そんな毎日が続いていく。
マリエッタの望みは叶わない。
「しかたないわね……」
家に帰してもらえないマリエッタは、諦めのため息を吐くと、ジュライアーツを受け入れた。
誘拐されてから3カ月後のことだった。