19(1/2) ― マリエッタの心
マリエッタはポッカリと目を覚ました。
何だか懐かしい夢を見ていた気がする。
身体の異変は収まっており、逆に睡眠不足が治ったようなスッキリ感がある。
ベッドに上半身を起こすと、傍らに突っ伏して眠っている竜王に気づく。
マリエッタに付き添っていて、そのまま眠ってしまったのだろう。
クークーと可愛らしい寝息を立てている竜王の銀の髪に手を滑らせる。
「本当に全然変わらないわね」
自分が15歳でこの国に連れてこられた時から、ジュライアーツの外見は一切変わっていない。
銀の髪に触れる自分の手を見る。
手入れの行き届いた手だ。滑らかで、シミ一つない。爪も綺麗に整えられている。
それなのに15歳の頃のように、プクプクとした張りや柔らかさは無くなっている。
こんな、ふとした時に自分が歳を取っていくことを実感する。
夫と引き離れさて行くと気づいてしまう。
自分が竜人だったなら、こんな思いはしなくてよかったのに……。
「帰せ、戻せと喚いていたから、自分から“竜魂の儀”のことを言いだせなかったのよね……」
マリエッタの小さな独り言は、寝ているジュライアーツには届かない。
結婚した時。初めて公の場に出た時。公務に携わった時。
様々な節目のたびに“竜魂の儀”を行うのかとマリエッタは身構えた。
だが、気が付くと26年もの時が過ぎていた。
肩すかしばかりで、自分はおばさんになってしまっていた。
「今“竜魂の儀”っていわれたら、どうしようかしら。
おばさんのままで長い時をアーツと過ごすのもキツイわよね……」
クスリとマリエッタは小さく笑う。
判っているのだ。“竜魂の儀”をすることは一生ないだろう。
自分はジュライアーツの真の番ではないのだから―――
始めは諦めからジュライアーツと結婚した。
右も左も分からないまま竜王妃の地位に就いた。
様々な公務が押し寄せてきて、とまどうことばかりだった。
でも―――
いつも傍らにジュライアーツがいた。
戸惑うマリエッタに優しく接し、手を引き導こうとする。
惜しみなくマリエッタに愛を囁く。
一度も他の女性に目移りしたことはない。
ジュライアーツを疑ったことはない。それほどジュライアーツは誠実だった。
人間にとって26年は長い。
頑なだったマリエッタの心はほぐれ、ジュライアーツに寄り添っていった。
身体を重ね、共に公務を務め、笑う時も、怒る時も、いつもジュライアーツが一緒にいた。
「アーツを愛しているわよ……」
ポロリと言葉と共にマリエッタの瞳から涙がこぼれ落ちる。
マリエッタの愛は小さなことの積み重ねで育まれていったものだ。
時と共に少しずつ大きくなっていった。そんな愛だ。