19(2/2) ― マリエッタの心
マリエッタは自分の腹部をそっと撫でる。
身体の中心にドロドロとした物が詰まっているような気がする。
身体を中心から溶かし、壊れていくような感覚。
日に日に強くなっていく感覚。
自分は長くは生きられないだろう―――
なぜかマリエッタは確信していた。
この体調不良が何なのかマリエッタには分かっていない。
しかし、竜人と人間が番うということ自体に無理がある。
脆弱な人間に対して、竜人の体液や精は強すぎる。
多くの竜人と他種族のカップルは、全てが他種族の方が体調を崩すことで破局を迎えている。
マリエッタ自身も、いつ体調を崩すかと戦々恐々と過ごしてきた。
だが、逆にマリエッタの身体や力は竜人並みの頑強さになっていった。
だからマリエッタは思ったのだ、自分は違うのだと。
自分だけは例外なのだと。
そう思って過ごしてきた。
それなのに―――
「とうとう、きちゃったか……」
潮時なのかもしれない。
若く美しいままの竜王と、年を取った自分。
ジュライアーツの隣に並ぶのは、もう無理なのかもしれない。
「アーツ」
銀の髪に手を絡める。
自分が死んだら、この泣き虫の竜王はどうなるのだろうか。
すこしは悲しんでくれるだろうか。
それとも、すぐに本当の番を探すだろうか。
ふと、少女の顔が思い出される。
“竜魂の儀”を行える本物の相手。
あ……。
ムカつく。
ぎゅうっ、とジュライアーツの髪を引っ張る。
「いだいー。痛い、痛いっ」
ジュライアーツが飛び起きる。
「マリちゃん。気が付いたっ!
大丈夫? 苦しくない、痛くない?」
目が覚めるなりマリエッタの身体を心配するジュライアーツに、少しはマリエッタの気分は落ち着く。
「大丈夫よ
」
「本当? 侍医がね、マリちゃん働きすぎだろうって」
「そうかもね、公務で疲れていたのかも」
いくら侍医が竜王国一の名医だといっても所詮は竜人。人間の身体のことは分からないのだろう。
マリエッタは小さく笑うとジュライアーツの頬に手を滑らせる。
「私どれくらい寝ていたのかしら?」
「そんなに長くないよ、まだ2時間たってないかな」
「そう。じゃあ明日の閉会式には出られるわね」
「えっ、マリちゃん駄目だよ、疲れて倒れちゃったのに。公務に出なくていいよっ」
「大丈夫よ。それに閉会式は、祝賀行事の最後の締めなのだから、アーツだけというわけにはいかないわ」
「でも……」
「心配しすぎよ。もう何ともないわよ」
綺麗な微笑みを浮かべたマリエッタは、ジュライアーツを安心させるように、その唇に軽く口づけたのだった。