21(2/2) ― 少女の正体
ジュライアーツから離れようと、手を離そうと思っていたマリエッタだったが、今回の事で身につまされた。
―離れたくない、別れたくない―
自分は人間で、竜人とは違う時間を生きている。
ジュライアーツより先に老いて死んでいく。
それでも―
「アーツ。あなたと離れたくないわ」
それがマリエッタの本音。今まで言うことのできなかった、マリエッタの本当の心。
「え?勿論だよ」
何のてらいも無く、すんなりと返答する夫。
「この先よ。これからずっと先のこと。
私がしわくちゃのおばあちゃんになってもいいの? もっと若くて綺麗な人が出てくるわよ」
マリエッタはクスリと笑って夫に問う。
別れたくない。自分の心に、もう嘘はつけない。それでも夫に無理強いはしたくない。
「おばあちゃんだろうと、何だろうと、マリちゃんがいいのっ!
マリちゃん以外は嫌なのっ!
マリちゃんが嫌っていっても、絶対に別れないからっ!
マリちゃんが死ぬまで。ううん、死んだって一緒にいるのっ!
絶対ぜったい、離れないんだからっ!!」
ジュライアーツはマリエッタをまたもギュウと抱きしめる。
妻から悩みを打ち明けてもらえないと、悩んでいたジュライアーツだったが、その妻が自分に悩みを打ち明けていることに、まるで気づいていない。
ただただ、自分の心を素直にマリエッタに伝えていた。
だが逆に、妻の悩みに如才なく答えようとするのではなく、本音で話してくれていることが、マリエッタの心に響いた。
マリエッタの心はジュライアーツの言葉に、ほぐされていく。
自分を卑下し、逃げようとしていた、そんな思いは無くなっていった。
何時まで一緒にいられるのかは分からない。
不調を訴えている、自分の身体が何時まで持つかも分からない。
それでも、夫に手を握ってもらって逝ってもいいのだろうか?
それを望んでもいいのだろうか?
がんじがらめになっていた心が、解放された気分だった。
「ねえ、アーツ。私のこと愛してる?」
「勿論だよっ。マリちゃんのこと、チョー愛してるよー」
「そう。じゃあ、もう少しガンバッテもらおうかしら?」
「え……」
マリエッタは夫に向かって妖艶な笑みを浮かべる。
それと共に、夫の胸に置いた手が、あらぬ動きをしだす。
もう夫から離れない。
その思いは、マリエッタの心を満たした。
だから、今度は身体を満たしてもらおう。
「マ、マリちゃん。あっあぁんっ。
マリちゃんは倒れたばっかりだよ。無理しちゃダメなんだよ。
ひうっ。触っちゃ駄目。
それに、僕も無理だから。もう出ないから。何にも出ないよ。
きゃうっ。ダメ。やめてマリちゃんっ」
「やだアーツ。私のこと愛してるって言ってくれたじゃない。それはウソなの?」
「嘘じゃない。嘘じゃないよぅ。本当だよ。本当に愛してるよー!
でも、無理。もう、無理だからー。やぁんっ。駄目だってぇー」
「ダメじゃないわよ。ウフフ。今度は最初っから入れてあげる」
二人とも、素っ裸のままだ。
やりやすい。とっても犯(や)りやすい。
「いや無理。本当に無理。無理だってーーーっ」
「何よっ、愛してるなら、あと2、3発はいけるでしょっ!」
抱きしめていたはずだった妻に、抱きしめられて逃げられない竜王は、抵抗を必死にしようとするが、妻に最初から叶うはずなどなかった。
無理やり絞られるだけ絞られるのだった。
「だからムリーッ。きゃううー」
※※※※※※※※※※※※
マリエッタはフワフワと幸せな夢の中にいた。
何だか久しぶりにグッスリと眠れており、まだまだ眠っていたい。
それなのに、何かが眠りを妨げようとしている。
人の声だ、それも一人や二人じゃない。
うるさい。
まだ眠いのに。
「どういうことですかっ。マリエッタ様は、倒れられたのですよっ。
それなのに、無理やり身体をお繋げになるなんて。マリエッタ様を壊す気ですかっ」
「情けないっ。竜王ともあろうお方が、妻に無体を働くなど、恥をしりなさい、恥をっ!」
「えー、違うよぅ、マリちゃんがぁ」
「まあっ、そのうえマリエッタ様のせいにするのですかっ! あんまりですわっ。見損ないましたっ」
「自分の欲望を優先させたうえに、それを被害者であるマリエッタ様のせいにするなんて、何ということでしょう」
なかなか開かない瞼をやっと開けてベットサイドへと目を向けると、侍女長のエリカと女官長のシオンに説教をされている夫の姿が見えた。
エリカとシオンは仁王立ち。表情も仁王そのものだ。
夫はオドオドとしながら、二人の前に座らされている。正座だ。
まだ眠いから、まぁいいか。
マリエッタは、そのまま眠りについたのだった。