22(1/2) ― サザンの思惑
「あの、年増の竜王妃のせいだ」
ダイアヌ国の国王であるザザンは、怒りもあらわに声を荒げていた。
サザンの国は、アーザイリイト竜王国の属国。
それも小さな国だ。ガリーア大陸に国がある限り、肩身の狭い思いをしなければならない。
国王という地位に就き、自国の中では、皆にかしずかれて生活しているサザンにとって、一歩国を出ると、途端に軽んじられる存在になることが我慢ならなかった。
だからこそ、自国の奴隷市場でサザイアリアリーナを見つけた時には、自分にチャンスが巡って来たのだと思ったのだ。
首の後ろから肩にかけて見えている鱗、ツルリとした肌。竜人に違いない。
竜人は子どもが出来にくいと聞く。そのため子どもを、それはそれは大切にすると。
それなのに目の前には奴隷となった竜人の少女。
サザンは迷うことなく少女を買った。
少女は美しかった。
数年に1度、お伺いをたてるために竜王国に行くのだが、その時に見る竜人たちは、美しい者が多い。しかしサザイアリアリーナは、その者達より群を抜いて美しい。
これならばいける。
あの、竜王妃に頭を押さえつけられ、傀儡にさせられている王のことだ、さぞ不満が溢れているだろう。
サザイアリアリーナに手を取らせ、私が助言さえすれば、あんな年増の竜王妃など、すぐに追い落とすことが出来るだろう。
サザンはニヤリと口の端を歪める。
サザンはサザイアリアリーナに令嬢としての教育を施していった。
しかし、サザイアリアリーナは、あまり聡明では無かった。
カーテシーだけは何とか教え込んだが、読み書きもできず、こちらが言うことも、あまり理解できていないようだ。
その上、喋ることができない。
しかし、サザイアリアリーナは、歳を重ねるごとに美しさに磨きがかかっていった。
王宮に関わる者達だけではなく、サザイアリアリーナを目にした者達全てが、その美しさに魅了された。
そんな時、アーザイリイト竜王国から建国の祝賀行事への招待状が届いた。
サザンは笑いが止まらない。
運命に導かれているのだ。このままいけば、自分はガリーア大陸の影の帝王に成れるのだ。
招待状には夫婦同伴でと書かれている。
サザンは6人いる妻の誰一人として連れて行こうとは思わない。
妻が病気になった、遠い他国まで行くほど身体が強くない……。理由は何でもいい。
同伴するのはサザイアリアリーナただ一人。
サザンは祝賀行事に、わざと遅れて行った。
最後の最後、竜王夫妻主催の舞踏会。
サザンは全てをそこにかけた。
あまり早くから行って、竜王とサザイアリアリーナの仲が進展する前に、竜王妃に邪魔をされないためだ。
今現在は全権を握っている竜王妃にサザイアリアリーナを始末されないように。
それに最後に行って、より深い印象を竜王に与えたい。
目論見は成功したといえる。
舞踏会会場で、サザイアリアリーナを一目見た竜王は、それ以降、一瞬も目を離さなくなった。
そのことに気づいた竜王妃が、具合の悪いフリをして、竜王を無理やり会場から連れ出したほどだ。
後は待つだけ。
サザイアリアリーナに一目ぼれした竜王は、何らかのアクションを起こしてくる。
サザンには確信があった。
しかし、さすがと言うべきか、竜王妃の行動は早かった。
サザン達は、いきなり王宮から追い出されたのだ。
祝賀行事が終了するまでは、王宮に滞在できると招待状には書かれていたのにだ。
説明も一切なく、あっという間のできごとだった。
それからは、竜王妃の権力を見せつけられるようだった。
竜王からの接触を待たなければいけない。そのため竜王国を出る訳にはいかないのだ。
それなのに、宿が取れない。
小国とはいえ、国主の一行だ。一番高級な宿屋へと向かったのに、宿の中にも入れなかった。
本当の門前払いだ。
それから、何軒もの宿屋で、同じような扱いをうけた。
どの宿でも同じ断り文句だった。
「サザイアリアリーナがいるなら、宿には泊まらせない」
すべては、あの竜王妃の息がかかってのことだろう。
どれ程の権力を持っているのか。
サザン一行は、中堅よりもやや下がる宿へと落ち着いた。
それも通常の倍以上の料金を払ってのことだ。
ただの平民のような扱いにサザンは怒りが湧いてくるが、考えてみれば、竜王妃にとって、サザイアリアリーナは、それ程の脅威ということだ。
一刻も早く、国外へと追放したいほどの脅威。
サザンは、そう思い、溜飲を下げる。