23(1/2) ― 紅薔薇隊の休日
マリエッタ様の護衛を専門とする紅薔薇隊の総数は28名。
大国である、アーザイリイト竜王国の竜王妃の親衛隊としては、とても少ない数だといえる。
竜王であるジュライアーツ様を護衛する白銀隊に至っては、50名以上の隊員がいる。
竜王も最愛の妻には、より安全のために、多数の護衛を望んでいらっしゃるのだが、いかんせん女性騎士の数がもともと少ないことと、竜王妃のもっとも近くに配されるということもあり、能力や適性が優れている必要があり、この数になってしまった。
この28名で24時間マリエッタ様をお護りする必要があり、紅薔薇隊は3班に別れ、日々職務を遂行している。
1班はオスカルーン隊長が班長を兼任している。
2班はアンドレーン副隊長が班長を兼任している。
そして、3班は私、フェルーン・ゼンが班長を務めさせていただいている。
少ない隊員での職務遂行はオーバーワーク気味だ。その上、現在は建国記念の祝賀行事が目白押しで、休みもオチオチ取れない状態だ。
“ブラック企業”そんな言葉が浮かんでくるが、言葉の意味は分からない。
特に来賓を招く式典などがあると、必ずといっていいほど紅薔薇隊はほぼ全員が引っ張り出される。
騎士団の中の精鋭達ということもあるが、見目麗しい男装の麗人達ということで見栄がいいからなのだろう。
来賓のお姫様方から、キャーキャー言われている。
特に隊長のオスカルーン様と副隊長のアンドレーン様は、その美しさ煌びやかさから、竜王夫妻の近くに配置されることが多い。
本来なら、重要人物の多く集まる、こういう場こそ、この国一番といわれる“白銀隊”が配置されるべきだろうが、それは無理というものなのだ。
なぜなら、全員がゴツイ。マッチョでムキムキだ。
体格もそうだが、顔も厳つい。招待客を自覚なく威嚇している。
言っちゃあなんだが、隊長のガイロンなどは、迫力が有りすぎて、女性それも年若い姫達などは、近寄られただけで泣き出す者もいるほどだ。
歓迎の式典で、招待客をびびらせてどうする。歓迎の意味が無くなってしまう。
おのずと紅薔薇隊は式典会場の中を、白銀隊は、外の警備にあたることとなる。
今現は祝賀行事の最中だが、マリエッタ様は家出をされている。
勿論、紅薔薇隊は同行させていただいている。
王宮を出たマリエッタ様が、ご購入された家出用の家は、とても狭く、広い王宮とは違い警備しやすい。
隣に立つ詰所を使わせていただいているので、すぐに駆けつけることも出来、休憩も取りやすい。
紅薔薇隊の隊員達にとっては、とてもありがたく、家出をされたマリエッタ様様だ。
マリエッタ様の警護はもとより、竜王夫妻と共に様々な式典や行事の警備をされている、オスカルーン隊長とアンドレーン副隊長にとっては、少しでも休みを増やすことができるというものだ。
なかなか休みを取ることが出来ないオスカルーン隊長とアンドレーン副隊長のお二人だが、マリエッタ様の家出により、本日は公休を取ることが出来ている。
しかし、有事などを懸念して、詰所にて休憩をされている。
私はお二人に会うために、持ち場を部下にまかせ、詰所へと急いだ。
本当は休日中のお二人を煩わせたくは無いのだが、どうしても今日中に、お聞きしなければならない案件があるのだ。
詰所の1階は、共同の休憩所になっており、椅子やテーブルが何客も置いてある。
今は夕方も遅い時間ということもあり、居間にいるのはオスカルーン隊長とアンドレーン副隊長の二人だけだった。
「どうだ」
「そうですね、やはり右の方が」
「しかし、左も捨てがたいと思わないか」
「それはそうですが」
二人が熱心に姿見の前で話し合っている。
この居間には、女性で編成された隊ということもあり、身だしなみのチェック用に、大きな鏡が壁に掛けられている。
「振り返ってみたらどうだろう」
「それではマリエッタ様との距離を取りすぎることになるのでは?」
「それもそうだな。では、髪をかき上げながらでは」
「礼の前ですか? 後ですか?」
「うーん……」
いったい何をされているのだろう。
非常に話しかけづらいが、持ち場を離れてきているため、出来るだけ早く戻らなければならない。
「あの~、申し訳あまりせん。休日割り当ての件で、お聞きしたいことが」
「ああ、フェルーン・ゼンか。3班の休日予定が決まったのか?」
「だいたいは決まったのですが、今度の式典の人員割り当てをお聞きしたくて……。あの、何をされているのですか?」
気さくに返事をしてくださるオスカルーン隊長に、思わず質問をしてしまった。
口に咥えておられる、一輪の薔薇の花がどうしても気になったのだ。
「ああ、これか。フフフ。エリーから聞いたのだよ」
「侍女のエリーから?」
「そう。マリエッタ様が、エリーに仰ったそうだ。
オスカルーンが薔薇の花を咥えていたら、どれほど似合うだろうか、ぜひ見てみたいと。
マリエッタ様に、そこまで言っていただいたのだから、一番美し姿をお見せしなければならないからな。
しかし、なかなか良いポーズが決まらず、困っているのだよ。フフフ、フフフフ」
困っていると言いながらも誇らしげなオスカルーン隊長は、キラッキラしている。
口に薔薇の花を一輪咥え、一節一節ごとにポーズを決められている。その姿は、それはそれは麗しく、どこぞの王侯貴族のようだ。
「ほう」
あまりの美しさに、ため息が知らずと漏れてしまう。
「やはり、片膝をつかれて下から仰ぎ見られるのがステキかと」
僭越ながら、申し出てしまった。
「「それだっ!!」」
お二人が同時に私を指差す。
ビビルから止めていただきたい。
「オスカルーン、こうか?」
「いえ、この角度のほうが」
「いや、ならば片膝を着くときは……」
お二人は、熱心にポーズを研究されているようだ。
キラキラとしたお二人をみていると、空しさが湧き上がってくる。
“見目麗しい紅薔薇隊”周りの人達からそう呼ばれている。
オスカルーン隊長やアンドレーン副隊長を筆頭に、隊員達皆が凛々しく美しい。
「フッ」
思わず、小さなため息が出てしまう。
隊の中で、私一人が地味で取りえがない。
こげ茶の髪に黒い瞳。ブサイクではないと思いたいが、決して美しい容姿ではない。
そんな地味な私が、厳しい選抜試験をクリアし、紅薔薇隊に入隊できたのは、奇跡といっていい。
自分の人生の“運”を使い果たしたと思っていたのに、オスカルーン隊長の推薦で、3班の班長に抜擢された。
地味で取りえの無い私が何故。
あまりにも驚いて、オスカルーン隊長に直接問いただしてしまった。
「私達、紅薔薇隊は、厳しい訓練を乗り越えた精鋭ぞろいだ。しかし、それだけで紅薔薇隊に入隊できるわけではない。資質が必要だ」
「資質……。ですか?」
「君を推薦したのは、その資質がずば抜けているからだよ」
「私に紅薔薇隊としての資質が有ると仰るのですか? 隊長、私に有る資質とは、いったい何でしょうか、教えてください」
「フフフ」
オスカルーン隊長は、艶やかに笑うと、答えを教えてはくれなかった。