●美魔女な龍王妃は家出中●

23(2/2) ― 紅薔薇隊の休日

「フェルーン班長、申し訳ありません」
物思いに沈んでいた私に、持ち場に残してきたはずの、エレイナ副班長が声をかけてきた。
「エレイナ、持ち場を離れてどうした」
「それが……」
「マリエッタ様の、お側を離れているのだ、悠長にしている暇はないぞ」
なかなか理由を話そうとはしないエレイナに私はじれる。
まさか、エレイナまでもがマリエッタ様の側を離れることになろうとは。
すぐに持ち場に戻らなければ。

「白銀隊が……。ガイロン隊長が、我々を持ち場から追い出そうと」
エレイナは叱られるのを覚悟した子どものように、ギュッと両手を握り合わせ、私に訴えてきた。

「あ゛」
思わず、地を這うような低い声が私から漏れる。

「ひぃ」
エレイナはビクリと肩を動かすと、そのまま震えだす。

「白銀隊だとぉ。あのダニ共がマリエッタ様の寝室前に来たというのかっ。ここは、マリエッタ様が買われた、マリエッタ様個人の家。そこに脳筋共が入り込んだというのかっ!」
「そ、そうです。陛下に付いて来たらしいのですが、陛下がマリエッタ様と共に寝室に入られたので、自分達が寝室前の警備をすると言いだしまして……」
エレイナは震えながら返事をする。

「エレイナっ!」
「はいっ!」
「お前たちは何をやっているっ。
おめおめとマリエッタ様の神聖な寝室前を、あの筋肉ダルマたちに明け渡したというのかっ!!
我々紅薔薇隊はマリエッタ様をお守りするのが使命っ! 一番近くで、お守りしてこその護衛だろうがっ!!
あんな脳みそにマシュマロが詰まったような奴らが、大切なマリエッタ様をお守りできると思っているのかっ!!」
ユラユラと舞い上がる怒りのオーラが見えるのか、エレイナの顔色が段々、青から白へと変わっていく。
しかし、エレイナも紅薔薇隊のれっきとした一員。決して泣き寝入りをするようなまねはしていないはずだ。

「決して我々3班は、あのゴリラ集団に“神聖なる寝室前”を明け渡したりはいたしておりませんっ。残してきた班員6名、死力を尽くしております。どうぞフェルーン班長にお力添えいただきたく私が参りました」
「よしっ、分かった!
あの筋肉以外取りえの無いヤツらを叩きのめしてやるわっ! マリエッタ様を、お守りするのは紅薔薇隊だと無い脳みそに刻み込んでやるっ!」
私は腰に付けている剣に手をかける。
最後の理性で、鞘から抜きはしないが、そのまま力の限り殴りつけた所で、神経など通ってはいない筋肉サル共には問題なかろう。
何事かと私達を見ている、オスカルーン隊長とアンドレーン副隊長にクルリと向き直る。

「申し訳ありませんっ! 至急戻らなければならなくなりました。また後ほど伺わせていただきます。失礼いたしますっ! エレイナ、行くぞっ!」
「はいっ!」
お二人に1つ大きく礼をすると、マリエッタ様の元へと走り出す。
あのガチムチ脳筋どもに、目に物見せてやる。マリエッタ様をお守りするのは、紅薔薇隊と決まっているのだから。

「いつにもまして過激だねェ」
「それがフェルーン・ゼンですから」
「それもそうか」
アンドレーンの返答にクスクスとオスカルーンは笑みをこぼす。

「いつかフェルーンが私に言ったんだよ。自分には紅薔薇隊の資質がないと」
「あれ程マリエッタ様のことが好きなのにですか?」
アンドレーンは、不思議そうに顔を傾ける。

白銀隊の隊員達から、マリエッタ様の狂犬として恐れられ、あのガイロン隊長ですら、苦手と公言してはばからない。極力関わりあわない様にしている。
知らないのは本人だけだろう。

紅薔薇隊の資質。
それは、マリエッタ様を好きなこと。
マリエッタ様に剣を捧げ、その命までをも捧げなければならない。
それを成せる者が紅薔薇隊隊員だ。
フェルーン・ゼンには資質有。それも大きな資質有だ。

だからこそ、オスカルーンは3班の班長にフェルーン・ゼンを任命したのだから。