25(1/2) ― 王宮でお茶を②
ジュライアーツは執務室で、本日の公務を粛々と進めていた。
本当だったら、王宮にいるマリエッタとラブラブしたいところだが、竜王ともなると、そうそう公務から逃げてばかりはいられない。
早く終わらせてマリエッタの元へと行きたい竜王だった。
「陛下、お話がございます」
親衛隊隊長ザガーリオが、いつの間にかジュライアーツの傍らで、片膝を着き頭を垂れている。
何時にもまして気配が無い。
「なんだ」
マリエッタ達へ向ける、少し高い可愛らしい声とは違う。
やや低い、硬質な声で返事をする。
いつの間にか執務室にいた、事務官や侍従たちはいなくなっている。
「マリエッタ様襲撃事件の報告に参りました」
ザガーリオの言葉に、ピクリとジュライアーツの肩が揺れる。
「いまだ決定的な物証は出ておりません。ですが、賊達からの証言の裏付けが全て終わりました」
竜王陛下に報告をするということは、それだけの根拠や確証があるということだ。それなのに、ザガーリオの言葉は、ためらいを含んでいるように思える。
「この3か月間でマリエッタ様が襲われた回数が5回。
それまで、マリエッタ様が襲われることは、そうそうありませんでした。それなのに、立て続けに襲われだしました……。
襲った賊たちは全てが人間でした。そして、その賊達全てが、竜王国の貴族から依頼を受けたと証言しています」
膝を着いたまま、淡々と話すザガーリオに、ジュライアーツは返事をしない。ただ、目で話の続きを促す。
「襲撃して生きたまま捕えられた者。後の捜査でアジトなどに潜伏している所を捕えられた者達など全ての者達から証言させました。
証言を照らし合わせた結果、5組ともに同じ竜人が襲撃を唆してきたのだと断定しました。
賊達に接触した人物は、深くフードを被り、顔をほとんど見せなかったそうですが、瞳の色、声、話し方、体型、本人が気づいていないだろう癖など、全て共通しています。
唯一、2回目の襲撃をしたグループの人間に、アクシデントで顔を見せていますが、右眉毛の上からこめかみにかけて、特徴的な大きな痣が有ったそうです」
執務室の中は静まり返っており、ザガーリオの声だけが響いている。
ジュライアーツにすれば、最愛の妻へ行われた、許しがたい行為だ。
しかし、ジュライアーツには、犯人の予想さえ立てることが出来ていない。
「その竜人は、自分を貴族の従者だと名乗り、犯行を唆(そそのか)していたようですが、自分の仕えている貴族が本物だと信用させるため、証拠の品として、毎回、貴族の紋章入りの袋のようなものを賊達に見せていたようです。
賊達は、その袋が何か知らなかったようですが、4回目の襲撃グループの生き残りが、元下位の役人だったらしく、その袋のことを知っていました。
納税袋に間違いないようです」
「納税袋?」
ザガーリオの言葉に初めてジュライアーツが言葉を返す。
納税袋が犯行に使われるなど、いままで無かった。
考えもしない、意外なことだったのだ。
納税袋とは、納税品に付けられる、領地、領主を示すものだ。
袋の中には、納税品の内訳書を入れる。そして、袋の表面に領主の印を押す。
納税時に、内訳に受領印を受け、納税をしたという証明とする。
納税する領地の者と、税を担当している役人以外、扱う者はいないと言っていい程の特殊な物だ。
まず一般人が目にすることは無いし、存在を知っている者も少数だろう。
「騙(かた)る貴族は違えど、身分を信じ込ませるために使う品は、全て納税袋だったようです。
納税袋を手に入れられる者は、限られてきます。それも何種類もの納税袋を手にいれることの出来る人物など、ほんの数えるほどです。
そして、特徴的な“アザ”の有る竜人……」
ザガーリオは一旦言葉を切る。まるで、これから先の話しをするのが嫌だといわんばかりに。
「まさか……」
ジュライアーツから、思わず小さな声が漏れる。
ザガーリオの報告を聞けば、犯行の黒幕は、自(おの)ずと分かってしまう。
だが、そんなことが、あるのだろうか。