●美魔女な龍王妃は家出中●

29(1/2) ― ジュライアーツの思い(後編)

マリエッタが倒れた。
ジュライアーツと結婚して数か月後のことだ。

結婚後、マリエッタは徐々に痩せていき、顔色が悪くなっていった。
ジュライアーツは心配したが、周りの者達は、生まれ故郷から離され、慣れない王宮での生活。ましてや竜王妃となったプレッシャーからだろうと言われ、そうかと思ってしまった。
マリエッタに十分な休息と、栄養のある食事を手配し、気を付けるよう指示した。

マリエッタは体調が優れないのか、ジュライアーツと話すことは少なくなった。
ジュライアーツも無理やり攫ってきたうえに竜王妃にした手前、こちらから話しかけたり、まとわりつくことが、引け目があって出来なかった。

ジュライアーツは気づいていなかった、マリエッタが笑うことが無くなっていることに。
ジュライアーツが何を言っても、何をしても、ただ静かに聞いているだけだということに。

とうとうマリエッタが起き上がれなくなった。
ジュライアーツは心配し、公務さえ投げ出そうとしたが、侍医を始め、周りの者たちは、マリエッタの気持ちの持ちようだから、落ち着けば治るとジュライアーツを諌める。
当のマリエッタは青い顔のまま、何も言わない。

何かおかしい―――
いくらマリエッタが故郷から離され、寂しい思いをしているとしても、この状態が普通だとは考えにくい。
周りの者たちの反応に、ジュライアーツはやっと違和感を持った。
ジュライアーツはアーザイリイト竜王国を出て、人間の医師を連れてきた。
周りの者達に知られないように、マリエッタを診察させた。

結果は“栄養失調”
医師は診察結果をジュライアーツに突き付ける。
身体が衰弱していること、精神的に参っていて、うつ状態に近いこと。

「結構長い間、栄養が不足しているようですよ。衰弱が激しいですね。
それに精神的にも辛いことがあるようです。
え、新婚さん? 旦那さん何やってんですか。あり得ないでしょう。自分の嫁さんを虐待しているんですか? 竜人は伴侶を大事にすると聞いていたのに……。あまりにも可哀そうすぎる」
医師はジュライアーツを訝し気に見ながら、テキパキとマリエッタへ処置を施す。

いくら医師の目の前に被害を受けている患者がいたとしても、人間の医師には竜人の国からマリエッタを助け出すことは不可能だ。
目の前の患者を助けることができずに、医師は無力感に苛まれているのかもしれない。

そしてマリエッタは、ただ静かに寝ているだけだ。

人間の医師には、竜王夫婦とは知らせていない。
攫うように連れられてこられた医師は、ここが竜人の国とは分かっていても、どこかの地方貴族と思っているようだ。

「遠い場所から嫁いできて、環境が合わないから、体調が悪いのはしょうがないと思って……」
「はあっ? 何を言っているんですか、限度ってものがあるでしょう。
自分の嫁さんが、こんなにやせ細って顔色が悪いのに、それが当たり前って、何を考えているんですか。
いいですか、このままだと命の危険がありますよ。」
「命……」
「当たり前でしょう。栄養が無ければ誰だって死にますよ。竜人が考える以上に人間は脆いんですよ、そんなこと分かっていたでしょう。なんで自分の嫁さんを大切にしないんですか」
医師の言葉に、事の重大さが身に染みてくる。
手が震える。いや、身体中が震えている。
なぜ気づかなかったのか。

マリエッタのことを思うと、自分のバカさ加減に反吐がでる。
自分がマリエッタを生まれ故郷から無理やり連れてきた。帰りたいと願うマリエッタを無理やり竜王妃にした―――。

このざまだ。
マリエッタがこの王宮の中で、どんな扱いを受けていたのか、自分は全く知らない。
知ろうとしなかった。