3(1/2)―家出へ出発
「準備は出来た?」
マリエッタは両隣に控える自分付きの二人に声を掛ける。
「はい。大丈夫です」
右に控えるのは侍女長。勤続23年、マリエッタ付きとして19年になるエリカ=キャンベル。
濃い茶色の髪をきっちりとお団子に結い上げ、侍女服には皺一つない。
大きめな瞳も同じ濃い茶色で、背が低いこともあり、実際の年齢よりは若く見られる。
可愛らしいフリルの付いた侍女服だが、違和感なく着こなしている。
とは言っても、マリエッタよりは、随分年上なのだが。
マリエッタの化粧品などの小物を中心に、大きく膨らんだ鞄を抱えている。
「もちろんでございます」
左に控えるのは女官長。勤続25年、マリエッタ付きとして21年になるシオン=リーザル。
淡い金髪の髪は後ろで結ばれ、ピンと背筋は伸びている。
瞳の色は緑。ハッキリとした顔立ちの美人だ。
マリエッタよりも随分年上だが、せいぜいが30代前半に見える。
マリエッタの装飾品や衣料などで大きく膨らんだ鞄を抱えている。
「では出発します」
マリエッタはチラリと隣室のベッドへと視線を向けるが、そのまま、お付二人を連れて部屋を後にする。
ベッドには昨夜マリエッタに、さんざん泣かされたジュライアーツが、ぐっすりと眠っている。まだまだ起きる気配はない。
ジュライアーツはマリエッタに逆らうことはないし、マリエッタに強く出ることもない。しかし、うざいのだ。泣いて縋って、纏わりつく。
自分の思い通りに事が進むまでそれを続ける。延々に。延々とだ。
あのままだったら、家出は不可能だろう。
だからこそ、昨夜マリエッタはジュライアーツから搾り取れるだけ搾り取ってやったのだ。マリエッタの家出が成功するまで、何もできないように。
だいたい家出は一人で、こっそりするものである。
それなにの、自分の夫に了解を取るのは、マリエッタがいなくなったのをいきなり知らされたジュライアーツが暴走しないためだ。
ジュライアーツが暴走すると国が壊れる。
実質的に壊れる。
見た目は美少女もどきだが、れっきとした竜王であり、歴代の竜王の中でもその力はトップクラスといわれている。
荒れる竜王を止められる者はいない。マリエッタを探すため、近隣諸国を焦土と化し、このガリーア大陸はボロボロになるだろう。
そのためマリエッタの家出はしかたないが申請制となるのだった。