3(2/2)―家出へ出発
マリエッタ一行が宮殿から一歩でると、そこには親衛隊の者たちがずらりと整列していた。
親衛隊はマリエッタの身辺警護を主な目的とした騎士隊で、その数28名。24時間マリエッタから片時も離れない。
マリエッタを象徴する赤い髪から、“紅薔薇隊”と呼ばれている。
全てが女性騎士で編成されているが、制服は男性の騎士と同じ物を使用しているため、男装の麗人達として女性たちの熱い視線を受けている。
特にオスカルーン隊長とアンドレーン副隊長の人気は絶大だ。
「マリエッタ様、お待ちしておりました」
オスカルーン隊長がゴージャスな金髪を煌めかせ、碧い瞳をひたとマリエッタに向けて、恭しく礼をとる。
女性にしては高い身長。スラリとしたスタイル。
整った顔立ちに、低くて甘い声。
流れるような動き。歌うような言葉。そして、ひたと見つめてくる瞳。
その背中には巨大な羽飾りが・・・無いが。無いのだが、なぜか見えるような気がする。
「あー、やっぱり付いてくるか~。
でも全員揃ってるっぽいけど、なぜ家出を知ってるの?」
「愛するマリエッタ様のことを私が知らないとでも?
マリエッタ様が行かれるところこそが私達が行くところ。どうぞマリエッタ様、私達が付き従うことをお許しください。
ここでマリエッタ様に打ち捨てられるようなことになったら、私達は悲しみのあまり息絶えることでしょう」
甘く柔らかな声でオスカルーン隊長はマリエッタに答える。
胸に当てた手の、指の先まで美しい所作は、まるでミュージカル俳優のようだ。
その姿はキラキラしている。ものすっごくキラキラしている。
普通の女子ならときめいて、夢心地どころか、気を失いそうだ。
口に一輪の薔薇の花を咥えてそうだよな。と、マリエッタは思うが口にはしない。なぜなら口にしたら絶対次から咥えているからだ。
「あ~、しょうがないか~」
「ありがとうございます」
麗しい微笑みを浮かべオスカルーン隊長は恭しく礼をとる。後ろに控える隊員たちも全員隊長に習う。
皆の後ろに羽飾り(大)と大階段。そして自分の手にはペンライトの・・・
いや無い無い。マリエッタは頭を振って、幻覚を追い出す。
オスカルーンに恭しく手を取られ、マリエッタは馬車へと乗り込んだ。
家出をするため竜王妃は、お付をぞろぞろと連れながら、城を後にしたのだった。