31(1/2) ― 殲滅の粛清
竜王妃になったマリエッタの世話役を仰せつかったのは、ジュライアーツを幼い頃から育て上げた、乳母のサニオだった。
サニオは古くから続く、オイラント伯爵家の夫人であり、ジュライアーツの母親であるトニアータ公爵夫人の親友でもあった。
サニオはトニアータからジュライアーツの乳母に是非にと乞われた。
ジュライアーツが生まれる半年前、サニオは長男を出産しており、乳もまだ出ていた。
周りの者達も、サニオを適任だと迎え入れた。
トニアータは元々身体が弱かったが、ジュライアーツの出産が止めを刺した。
ジュライアーツが、わずか3歳の頃、この世を去ってしまった。
ジュライアーツの父、ザライアート公爵は、妻の死を嘆いたが、政略結婚の相手であったためか、後を追うようなことは無かった。
ただ、以前にもまして仕事に打ち込むようになり、ジュライアーツの世話は、サニオに一任されることとなった。
サニオは自分の息子よりもジュライアーツを慈しんだ。
親友の忘れ形見ということもあるが、自分の腕の中にいる幼子が、次代の竜王と決まっているのだ。
ジュライアーツの竜魂は、竜王の証である濃い紫色をしている。
現在王位に就いている竜王よりも、高い資質を持っている証拠だ。
サニオは誇らしさに胸を高鳴らせる。自分は竜王を育てる国母となるのだ。
ジュライアーツのことは、全てサニオが決めた。
食事、服、おもちゃに至るまで、サニオが選びジュライアーツに与えた。
世話係や家庭教師、友達さえも、サニオが選別し、認めた者しかジュライアーツの側に近づくことを許さなかった。
ジュライアーツの全てはサニオに決定権があった。
小さなジュライアーツは、サニオの言うことを良く聞いた。
素直で反発などしない子どもだった。
サニオはこのまま、自分の腕の中のジュライアーツが国王となるものだと思っていた。
ジュライアーツが100歳を超えた頃から、自分の番を探すと言いだした。
竜王としての教育が少しずつ始まった頃だった。
サニオは納得がいかなかった。
自分が選び、認めた女性をジュライアーツには妻として迎えさせる気だったのだから。
それなのに、何を言い出すのか。
サニオはジュライアーツを止めた。
竜王となろうという者が、見つかるはずのない“魂の番”など探してどうするのかと。
それよりも、竜王となり、それに見合った妃を娶ることが大事だと。
今迄、素直にサニオの言うことをきき、逆らうことの無かったジュライアーツが、始めてサニオに反発した。それどころかサニオのことなど相手にもせずに、番を探しに王宮を抜け出してしまうのだった。
サニオは困惑した。そして怒りが湧いてきた。
自分は今までジュライアーツに尽くしてきたのに。
これほどしてやったているのに。
恩を仇で返すのか。
恩知らずも甚だしい。
ジュライアーツには、自分が認めた女としか結婚は認めない。
サニオにとっては、それは当たり前のことであり、決定事項であった。
時が過ぎていき、それでもジュライアーツの番は見つからなかった。
サニオは“ほら見たことか”と内心は思っていたが、ジュライアーツを慰め、自分が探してきた女性を何人も連れて来ては、妻にと進めた。
しかし、ジュライアーツは首を縦には振らなかった。
いいかげん腹に据えかねてきたが、サニオは高を括っていたのだ。“魂の番”など見つかる訳がないと。