33(1/2) ― 竜王陛下の宝
意識を失っているマリエッタが発見されたのは、幸運な偶然だといえる。
いつマリエッタが戻って来てもいいようにと、家出用の家の掃除を侍女がしている時、足の下で“ガタリ”という大きな音がしたのだ。
不審に思った侍女が床に敷いてあるカーペットを、どかしてみると、そこには床下収納庫があり蓋が少しズレていた。
まさかと思い、蓋を開けてみると、身体を丸め意識を失っているマリエッタが、そこにはいたのだった。
侍女は泣きながら詰所へと駆け込んだ。
マリエッタの状態が思わしくないのが、一目見て分かったからだ。
ひどく泣く侍女から、なんとか話しを聞きだし、マリエッタは救出された。
発見した侍女エリーは錯乱が酷く、医療機関へと移送された。
竜王妃マリエッタは意識不明の状態だった。
すぐに王宮中の医師が呼ばれた。
右わき腹と右足首に怪我をしていたが、命に別状があるようなものでは無かった。
しかし、マリエッタの意識は戻らず、衰弱が激しく命の危険があると診断された。
医師の中には、何故マリエッタが瀕死の状態なのかを解明できる者はいなかった。すなわち治療の方法が分からないのだ。
王宮の医師だけでは、らちが明かない。国中の医者に人間の医者、様々な多くの医師たちが呼ばれた。
しかし、どの医者もマリエッタを治すどころか、治療方法さえ見出すことが出来なかった。
「どうして、どうして、どうして。いやだ、マリちゃん目を開けて」
意識を失い青い顔をしたマリエッタの傍らで、ジュライアーツはマリエッタの手を取り、ただ涙を流し続けている。
発見されてから、マリエッタの意識は戻らない。時折小さく呻(うめ)くだけだ。
マリエッタが前回倒れた時に、これ程マリエッタの身体が弱っていると、なぜ気づかなかったのか。
『国の祝賀行事中だから忙しくて、疲れが溜まっているのよ』そんな言葉を信じてしまっていた。
自分はいつもそうだ。
取り返しがつかなくなって、やっと気づく。
フラリ。
ジュライアーツは立ち上がる。
「すぐ戻るから、少しの間、待っていてね」
マリエッタの頬をなで、優しく声をかける。
マリエッタが発見されてから、ジュライアーツは初めてマリエッタの傍を離れた。
ジュライアーツは、広い宮殿の奥へ奥へと進んでいく。
その足取りは、迷うことは無い。
ジュライアーツの足は、宮殿の最奥、宝物庫へと向かっていた。
ジュライアーツが、何をしようとしているのか気づいた重臣の者達が、掴みかかるようにして止めようとしたが無駄だった。
宝物庫を守る騎士達も、なんとかジュライアーツを中に入れない様に死力を尽くしたが、簡単に排除されてしまった。
「陛下っ、どうかおやめくださいっ」
「陛下、それだけはっ、それだけはっ」
「どうか、思いとどまってください!」
臣下たちの悲痛な声が辺りに響く。
しかし、その声がジュライアーツに届くことは無い。