●美魔女な龍王妃は家出中●

33(2/2) ― 竜王陛下の宝

アーザイリイト竜王国の宝物庫。
ガリーア大陸の宝が凝縮したかのような場所には、光り輝く宝たちが、所狭しと置かれている。
ジュライアーツは、美しく輝く宝たちには目もくれない。ただ奥へと入っていく。
最奥にポツンと置かれている一振りの剣。
これが目的だ。

とても大きな剣だ。成人の竜人男性でも、簡単には持てないだろう。
装飾は少なく、武骨な作りをしている。全体的に黒く、鈍い光をただ、反射している。
ジュライアーツは、迷いなく、その剣を手に取ると、大事そうに抱えてマリエッタの元へと戻って行った。

アーザイリイト竜王国の国宝『ドラゴンスレイヤー』

竜気が桁違いに強い竜王は、その身体も頑強にできている。
自死さえもできない程に。
そんな竜王を唯一、死に至らしめることが出来る武器。それがドラゴンスレイヤーだ。

ドラゴンスレイヤーの側面をそっと撫でる。
ジュライアーツの真の恐怖はマリエッタと離れてしまうこと。
これでマリエッタと共に逝くことができる。

「マリちゃん。マリちゃんは僕の真の番だから、僕から離れたらだめだよ。僕とずっと一緒にいなくちゃだめだよ」
力のないマリエッタの手を取る。
ほとんど体温が感じられない、冷たい手。

ジュライアーツは、そっとマリエッタの唇に口づけをする。
すると、マリエッタの瞼が少し震えた。唇が何かを喋ろうとしてか、うっすらと開いた。
しかし、力尽きたのか、そこまでだった。
祈るように目を閉じていたジュライアーツは、そのことに気づくことはなかった。

今、部屋の中は眠っているマリエッタとジュライアーツの二人だけだ。
部屋には結界を張り、誰も入ることはできない。
全ての人払いをしたのだ。
役に立たない医師達も、泣き崩れる侍女達も、誰も部屋には入れていない。
ただマリエッタと二人でいたかった。他の者は誰一人、側にいて欲しくなかった。

「マリちゃんが逝ったら、すぐに僕も逝くよ。ううん、一緒に逝こうね」
ドラゴンスレイヤーを持つ手に力を入れる。


ドン、ドン、ドン。
「へやかーっ。陛下、どうぞ部屋を開けて下さい」
「お願いでございますっ。陛下っ。扉を、扉を開けて下さいっ!」
扉の外で、臣下たちが騒いでいる。

煩い。
ジュライアーツの竜気が溢れだす。
マリエッタとの仲を裂こうというのか。離れ離れにさせようというのか。

ドン、ドン、ドン!!
「へやかーっ。医者でございます。マリエッタ様を治すことが出来る医者が、おりましたーっっ」
「マリエッタ様が、マリエッタ様が、これでっ、助かりますっっ。これでーー!」 「陛下、扉をーっ」
臣下たちの言葉に、弾かれたように身を起こしたジュライアーツは、ドラゴンスレイヤーを足元に落としたまま、扉へと向かう。

扉を勢いよく開けたジュライアーツが目にしたのは、服を纏った“犬”だった。