●美魔女な龍王妃は家出中●

34(3/3) ― 医師登場

「祖父さんも1組目の時は、対処が判らず残念な結果になったようですが、それから調べて研究して、何十年か経った後に、2組目を診察(み)た時は、無事に治すことができたと言っとりました。
オレは忘れていましたが、ちゃんと祖父さんの話を思い出しました。役にたてると思いますよ」
シューシュはニヤリと笑う。

「お願いだ、マリちゃんを助けてくれ!」
「分かってますって。獣人と竜人の違いはありますが、まあ大丈夫でしょう。ただ竜王様、治療は、あなたにしていただかないと駄目なんですよ。オレは獣人ですからね、直接竜王妃様を治すことは出来ないんですわ」

「僕が……。どうやって?」
今迄、名医と呼ばれる者達が、どんなことをしてもマリエッタを治すことはできなかった。
竜気が強いとはいえ、癒しの力を持たないジュライアーツに何が出来るというのだろう。

「獣人のオレには竜気はありません。それに竜王妃様は番の竜気以外は、受け付けないでしょう。竜王妃様は、竜王様のために、自分の人間という種族さえ、越えようとされている。
竜王様。どうか竜王妃様を導いてあげてください。竜王妃様を救えるのは、竜王様以外、いないんです」
シューシュの言葉に、マリエッタに己の魂さえも差し出す思いのジュライアーツは、ただ頷く。

「獣人の力は血に宿ります。だから獣人の場合は、番の人間に“輸血”するんです。変化しようとする番に、その身体が落ち着くまで、輸血し続けます。血に宿る力が身体に馴染むまで続けるんですわ。まあ獣人ですからね、少々血を抜かれたって、どうってことはありません。 もともと変化しようとしていた身体だから、輸血された血と力を拒絶はしない。身体に馴染めば自分でも作っていけるようになる。身体が落ち着き変化することができます」
シューシュはジュライアーツから一旦視線を外し、マリエッタを見る。
その顔は青白く血の気が無い。時間の猶予が無いことを物語っている。

「いいですか、竜王様がやらなければならないことは3つあります。1つ目は、竜王妃様の身体には、竜気が不足している。そのため竜気を送ってやらなくちゃならない。
ですが竜気を送るだけじゃ駄目なんですわ。人間は竜気を扱うことが出来ないから、竜王妃様の竜気も滞ってしまっている。2つ目は、その流れを促して循環できるようにしてやらなくちゃならない。
そして最後の3つ目は、少しの竜気しか作れない竜王妃様に、竜気を作れるように導いてやる必要があります。
竜王妃様を助けるには、竜王様に頑張ってもらうしかないんですわ」
ベッド脇に跪き、マリエッタの手を取るジュライアーツは、シューシュの言葉に迷うことなく頷く。

「マリちゃんのためなら、僕は何だってできるよ」
ジュライアーツは、なんのてらいもなく答える。
それは、当たり前のことだから。

「そうでしょうね。両者が思いあってないと、変化なんか出来るもんじゃない。羨ましい限りですわ」
シューシュはシミジミと言葉を漏らすと、顔を引き締める。

「では、やり方と注意事項を伝えます。竜王妃様の負担を考えると、少しでも早く始める方がいい」
シューシュは、やり方や何点かの注意事項を事細かにジュライアーツに伝える。ジュライアーツも分からない点や疑問点を何度も繰り返し問いただす。

そして、ジュライアーツが納得すると、シューシュは部屋の中にいた者達全てを連れて出て行った。
部屋の中には、またジュライアーツとマリエッタの二人だけになった。

「マリちゃん。すぐに楽になるからね」
ジュライアーツは、覚悟を決めたように、マリエッタの身体に手を伸ばしていった。



※ いつもは竜王陛下として取り繕っているアーツさんですが、今はマリエッタが倒れて、精神的に焦っており、マリちゃん呼びの上に自分のことは僕と言っています。