35 ― 治療
ゆっくりとマリエッタの服を脱がせていく。
自分も全裸になり、眠ったままのマリエッタの隣にそっと滑り込む。
ヒンヤリとしたマリエッタの身体に両手を回し、右わき腹や右足の怪我に注意しながら、隙間の無いように抱きしめる。
「マリちゃん。すぐに楽になるからね」
そっと口づける。
竜気は体液、特に精液に多く含まれる。
マリエッタがジュライアーツを襲っていたのは、無意識にだが、精を身体に多く取り込み、竜気が不足するのを補おうとしていたのだろう。
だがマリエッタは人間で、取り入れた竜気を循環させることはできない。その時は一時的に体調は良くなったかもしれないが、身体の悪化は進行していった。
今、ジュライアーツは、マリエッタを抱こうとはしない。
竜気が不足しているマリエッタを抱いて、精を注ぐことは簡単だ。
だが、衰弱しているマリエッタに無理をさせ、身体を壊してしまったら元も子もない。
それに、マリエッタの下腹部、丹田といわれる場所には固く凝(こご)った竜気を感じる。
長い時間をかけて、幾重にも重なり固まった物なのだろう。
マリエッタを抱いて、固まった竜気を増やすわけにはいかない。
まさか人間であるマリエッタに竜気があるなどとは思わず、ジュライアーツはもとより、マリエッタに関係した全ての竜人が見落としていた。
もっと早く気付いていれば、こんなにマリエッタを苦しめることは無かったのに……。
ジュライアーツは頭を振って、自分を責める思いを一旦中断する。
今は、そんなウジウジした感情に時間を取られている場合ではない。一刻も早くマリエッタを楽にしてあげなければ。
シューシュから言われた注意点を思い出しながら、そっとマリエッタの顔に唇を寄せる。
獣人の力は血液と共に身体を廻るという。
しかし、竜気は違う。経絡(けいらく)といわれる血管とは違う、気の道を流れる。
竜人にすれば、生まれた時から竜気は体内にあり、竜気を経絡に乗せ、身体に廻らせるということは当たり前のことだ。
しかし、マリエッタは人間で、経絡など存在からして知らないだろう。
ましてや使い方など分かる訳はない。
マリエッタの額の中央。俗に『第3の目』といわれる場所に口づけし、注意しながら全身を廻るように少しずつ竜気を送っていく。
凝った竜気を解し、和らげ、少しずつ流れに乗せ、身体を廻らせていく。
何年、何十年と凝り固まったマリエッタの竜気は、簡単に解(ほぐ)れることはない。
ジュライアーツは、マリエッタの負担を考えながら、根気よく自分の竜気を流し込んでいく。
何日も何日も、それこそ寝食も忘れて、ただマリエッタの、その瞳が開くことを信じて、ジュライアーツは自分の竜気を惜しみなく与えていく。
力の強いジュライアーツだからこそ出来ることなのかもしれない。
周りの者達は、開くことのない扉の前で、ただ祈るだけだ。
扉が開き、マリエッタの声が聞こえるのを、ただただ待ち望んでいた。
「やだ、アーツったら、また泣いているの」
自分の目元を誰かが優しく撫でる。
いつの間にか疲れ果てて眠ってしまっていたのだろう。
ジュライアーツが目をあけると、そこにはマリエッタが目を開け、ジュライアーツを見ていた。
「マリちゃんっ!」
ガバリっと起き上がり、マリエッタに覆いかぶさるようにして、顔を寄せる。
「マリちゃんっ。マリちゃんっ。マリちゃんっ!!」
マリエッタの顔を両手で挟み、顔中にキスをする。
「うわっっ。ちょっと、ちょっとアーツ。やめて、やめてよ。え、何? どうなっているの、私ってば全裸じゃない。何なのよ」
「マ゛リ゛ぢゃんだ~。マ゛リ゛ぢゃんが生きてる。嬉しい。嬉しいよー」
どんなにマリエッタが手でジュライアーツを押し戻そうとしても、駄目で、マリエッタは
キスの嵐が止むのを待つしかなかった。
「あー何か調子いい」
ベットに上半身を起こし、胸までシーツを引っ張り上げ、首をコキコキいわせながら、肩を回す、おっさん臭いマリエッタ。
その横で鼻水を垂らし、ベソベソと泣く美少女もどき。
ジュライアーツの結界が消え、部屋へと入れるようになり、あわてて駆け込んだ皆が見た光景だった。
※ え~っと、経絡とか丹田とか、突っ込んで聞いたら、ダメだぞぅ❤