4(1/2)―家出用の家
マリエッタはアーザイリイト竜王国では女性で一番高い地位にいる。
そして、この地位に見合う給料を毎月もらっている。
しかし、この給料からは侍女達の給料。アンチエイジングの化粧品代。下着や普段着の服飾品代など様々なものが支払われている。
逆に、女官達や護衛の騎士達の給料。パーティーなどで着るドレス代などは公費で賄われる。
とても事細かに分けられ管理されている。
「とは言っても、ヘソクリで一軒家が買えるんだから高給取りよね」
こぢんまりとした家を見ながらマリエッタは独り言をこぼす。
3DKの一人で暮らす家出用の家だ。
中古物件として売りに出されていたのをマリエッタが購入した。
築20年以上経っているらしく、少々ガタがきているが、元が農家の娘だったマリエッタは気にしない。
童話に出てくるような小さな家は、緑に囲まれ、随分と可愛らしい佇まいをしている。
城から馬車で1時間半ほどの街はずれの場所にある。
途中、少し寂しい場所も通るが、王宮騎士団の制服に身を包んだ紅薔薇隊が、騎馬で馬車の周りを取り囲んでの移動だ。これ程、安全なことはないだろう。
それに、無印の馬車を使ったとはいえ、ある意味有名な紅薔薇隊だ。馬車の中の人物は言われなくても誰かわかるというものだ。
最強と言われる竜王の最愛の妃を襲う者は、そうそういない。
馬車の中には、お付が二人。馬車の周りには紅薔薇隊。大勢を引き連れての家出だが、これがマリエッタにできる最小人員での家出だ。
まぁ、しょうがない。マリエッタは竜王妃なのだから。
家出しようにも、城からどころか、部屋からだって一人で出ることは不可能だ。
それなら家出に連れて行った方が手っ取り早い。
だが、もともとマリエッタは平民。それも農家の娘だった。竜王妃になって26年たったとはいえ、農家の娘の時のことを忘れたわけではない。
だからこそ、家出先の一軒家では、1人を満喫するつもりだ。
身の回りのことも、食事の用意だって、マリエッタは1人で出来る。26年ぶりだが、出来るはず。
うん、出来るんじゃないかな……。なんとかなるだろう。
連れてきたエリカやシオンとは、ここでお別れだ。
二人とも、少しは心配するだろうが、家出なんだから一人があたりまえ。
なんとか分かってもらうつもりだ。