38(1/2) ― 宰相グレンツの困惑
行方不明だったマリエッタ様が発見された。
それも、マリエッタ様が自ら購入された、家出用の家の床下収納庫の中でだ。
マリエッタ様は衰弱し、死の危険が迫った状態だった。
血の通っていないような青白い顔。
息すらしていないような力の無い身体。
ただただ、縋って泣く竜王陛下。
それを見ているだけしか出来ない自分。
身体の中に、マグマのように怒りの感情が渦巻くのが分かる。
自分の大切な者達を、傷つけたヤツを許さない。
これ程の怒りを感じるのは、いついらいだろうか。
事務隊や騎士団、紅薔薇隊たちが、入念な捜査を行っているのは知っている。
しかし、自分の中の感情が治まらない。
自分の持てる力。部下、情報網、コネ、ツテ、全てを使ってでも、犯人を見つけ出す。
一番疑わしいのは、留守番として家出用の家に居た、侍女のエリーだ。
今は医療施設に連れて行かれ、接触が出来ない状態だが、何としてでも情報を引き出さなければならない。
マリエッタ様に仇名したのが、エリーだと分かれば、その場で引き裂いてやってもいい。
日々の業務を超スピードで処理しながら、マリエッタ監禁の犯人の捜査も、並行して行っていく。
今は腹心の部下のトータオに、エリーのことを徹底的に調べさせている。
エリーのことは、調べれば調べるほどに、おかしな点が浮き上がってくる。
王宮に奉公に上がる時、エリーは徹底的に身元調査をされていたはずなのに、叩けばホコリが出る様に、エリーからは不審な点が湧いて出てくる。
そして、おかしな言動をとるのは、被害者であるマリエッタもそうだ。
なぜかエリーを庇う。
そしてエリーの尋問を止めている。
もしかして、エリーの背後に何かしらの組織なり、大物貴族なりが存在するのだろうか。
そのためにマリエッタは、動けないのではないか。
それともマリエッタは、エリーに何かしらの弱みを握られているのかもしれない。
マリエッタは大事なことは内に秘め、他の者に心配を掛けまいとする、きらいがある。
なぜ自分に一言相談してくれないのか。
執務室の広い机の上で、グレンツは1つ溜息をつく。