40(1/2) ― 竜魂の儀
「はあぁぁ、なんて御美しいのかしら」
「本当に、ほれぼれしますわ」
「お似合いでございますぅ」
侍女長のエリカを先頭に、侍女達全員がウットリとマリエッタを見ている。
今、マリエッタは純白のドレス。どう見てもウエディングドレスを着ている。
いや、着せられている。
(ないわー。40過ぎて、このドレスはないわー。中年女に、このドレスを着せるヤツの気がしれないわ)
チロリと、隣でカクカクと、いまだ踊っている夫を見る。
ジュライアーツは、マリエッタに竜魂ができ、竜魂の儀ができることが分かった時から踊り続けている。
だが、踊り続けてはいるのだが、意識はしっかりしており、踊りながら、あれやこれやと口をだす。
その上、口だけではなく暗躍もしている。
こんなに早く、竜魂の儀をすることになったのも、この踊る竜王が手を回したからだ。
「ウフフフ、マリちゃん、キレイー」
踊りながら、頬を染めている。
「いやもうね、この歳で、このドレスはないでしょう」
「ウフフフ、マリちゃんは、僕のお嫁さんなのー」
「何年、結婚生活送っていると思っているのよ」
「ウフフフ、マリちゃんは花嫁さんー」
カクカクとした踊りだが、興が乗ったのかクルクルと回っている。
駄目だこりゃ。
マリエッタは、自分の夫から視線を外した。
今、マリエッタとジュライアーツは、宮殿の中にあるチャペルへ二人で向かっている。
隣の竜王は、カクカクと、いまだ踊ってはいるが、両脇を大勢の者達に見守られながら、なんとか進んでいる。
竜魂の儀は、本来結婚式と共に行われることが多い。
結婚式をし、次に竜魂の儀を済ませ初夜へと続く。これが主流だ。
しかし、マリエッタ達は、20年以上前、国を挙げての盛大な挙式を挙げているため、竜魂の儀だけを行うことになった。
マリエッタとしては、その後の初夜は、やる気満々だが。
竜魂の儀は、二人だけで祭壇の前で行う。
マリエッタ達も、それに倣うため、大勢の見送りを受け、二人だけでチャペルへと進んでいる。
チャペルの中は、静謐な空気に満たされている。
マリエッタとジュライアーツは祭壇の前まで来ると、二人向かい合う。
ジュライアーツは、マリエッタのヴェールを頭の後ろへと流し、そっと唇に触れるようなキスをする。
「マリちゃん。僕、嬉しい」
「私もよ」
ジュライアーツは、すでに涙を流している。
この26年間、様々なことがあった。
この夫は、自分に分からない所で、どれほどの努力をもって自分を守ってくれたのだろう。
そんな夫が、自分と寿命さえ共にありたいと願ってくれている。勿論、マリエッタも同じ気持ちだ。