9 ― 目が覚めました(1/2)
部屋に何人もの女性が入ってきました。
「殿下、エルリーナ様は今混乱されているご様子。どうぞ、殿下はお部屋を出ていただいて、エルリーナ様のお世話は私たちにお任せ下さい」
口ぶりから侍女さんだと思われますが、一番偉そうな侍女長(?)さんの言葉を受けて、殿下は部屋から出て行きました。
なんだかグチグチと言っていましたが、聞く耳なんてありません。
もとからすっぽんぽんでしたが、だからと言って女性とはいえ複数の人達に身体を見られるのは嫌です。
シーツを被ってカメの体制をしていたのに、いとも簡単にひっくり返されてしまいました。
そして、暴れる私を皆で押さえつけると、私の内またを布で拭き“純潔の証”とか言って、その布を持って侍女さんの一人が、どこかに行ってしまいました。
そして次に、お風呂に連行されると、けっこうぐちゃぐちゃのどろどろだった身体を、洗いまくられました。
私はといえば、昨夜から朝までの王太子殿下の所業で疲れまくっておりましたので、恥ずかしいと思う気持ちはあったものの、抵抗する体力も反抗する気持ちも底をついておりました。されるがままです。
お風呂から出ると、またベッドへ裸のまま寝かせられ、エステのフルコースです。全身くまなく肌のマッサージをされて、なんでそんなことをするのか疑問に思う暇も与えられずに、スキンケアまでされて、元がヘロヘロだった私は、そのまま気を失うように寝てしまいました。
起きたら寝室に1人でした。
いや、目の前に誰かいたら飛び跳ねるほど驚いていたでしょうけどね。
現在テロンテロンで高級そうな寝巻を着せられています。昨夜のスケスケ夜着とは違い健全なものです。
ですが寝巻のままというわけにもいきません。
自分の着てきたドレスを探しますが見当たりません。
かってにクローゼットを開けてドレスを探してもいいのでしょうか?
元のドレスに着替えて早く帰りたいです。
昨夜からのことについて深く考えると、悲しみとか混乱とかに陥ってしまい、動けなくなって帰れなくなりそうなので、一旦考えることを放棄します。
今後のことは帰ってから考えることにします。
そのためにもドレスを見つけなければなりません。
こんな所から1分1秒でも早く抜け出さなくては。
思い切って作り付けの豪華なクローゼットを開けると、見事なドレスが何着も掛けられていました。
1着で我が家が破産しそうな高級品のようです。
高級ドレスのすき間を探っていきますが、私の質素といえば聞こえのいい着古したドレスが見当たりません。
「失礼いたします」
私が起きてゴソゴソと動いている気配を察知したのか、部屋へ侍女長さんが入ってこられました。
「おめし替えと、お食事をお持ちしました」
「あの……」
私の返事よりも先に、侍女長さんの合図で、昨夜と同じ侍女メンバー達が入室してきました。
そして、あれよあれよという間にクローゼットの中にあった高級ドレスに着替えさせられ、部屋のテーブルの上には朝食(昼食?)が準備されました。
温かいクロワッサンに、ふわふわのオムレツや厚切りの数種類のハム。サラダに果物。料理の他にも何種類ものジャムやクリーム、デザートなのか小さなケーキなど、テーブルに乗り切れないほど並んでいます。王宮は朝から豪勢です。
「私のドレスは……」
「クローゼットの中の物は、全てエルリーナ様のために用意した物でございます。お気に入られた物がございましたら、お声がけください。お手伝いをさせていただきます。時間がなく、既成の物しか用意できておらず、誠に申し訳ございません。お食事が済まれましたら、サイズを測らせていただき、至急お身体に合ったドレスを作らせていただきます」
侍女長さんが深々と頭を下げ、それに合わせて周りの侍女さん達も全員が頭を下げる。
「あっ、いやっ、頭を上げてください。こんな高そうなドレスはちょっと……。あの、そうでは無くて、私のドレスを探していまして、自分のドレスに着替えたいのですが……」
慌てて両手を振って、頭を上げてもらえるようにお願いします。
私みたいな低位貴族の娘に頭を下げたらいけません。メチャクチャ焦ります。
「せっかく食事の用意をしていただいたのですが、私は自分のドレスを着て早く帰りたいのです……。あっ、大丈夫です、歩いて帰りますから」
せっかく綺麗なドレスを貸してくれて、美味しそうな食事を準備してくれたとしても、もう帰りたい。
いくら王太子様からだとはいえ、酷い目に合わされたのだから、こんな場所に居たくない。
「御食事が冷めてしまいます。どうぞ、お召し上がりください」
はい、スルーです。
私の言葉は耳に届いていないようです。