9 ― 目が覚めました(2/2)
「あのっ、帰ります! もし何かありましたら、エルシュワ侯爵様の屋敷に寄せさせていただいているので御連絡下さい」
私はキッバリと言い切ると立ち上がる。
何故だか分からないけど侍女長さん達は、私が帰ると言っているのに聞いてくれない。
そちらがそのつもりなら、こちらも強行しようじゃないですか。
エルシュワ侯爵様に迷惑がかからないといいのだけど……。ごめんなさいエルシュワ侯爵様。ソッコーで田舎に帰りますから許して下さい。
「王太子殿下より、こちらの部屋でお待ち下さいとのことです」
侍女長さんがニコリともせずおっしゃいます。問答無用の雰囲気です。
「このドレスはお借りします。帰宅後に洗濯して返させていただきますのでお許しください。では、失礼します」
王太子殿下と聞いて、怒りが心の中で爆発します。
なにがここに居ろだっ! 二度と王太子殿下に会う気などありません。
朝食には非常に心惹かれますが、人のいるうちに部屋から出ないと、部屋に鍵でも掛けられたら帰れなくなってしまいます。
ずんずんと歩きだします。
「!! エルリーナ様、どうぞこちらにおかけ下さい」
「エルリーナ様、御食事を召し上がってくだい」
「エルリーナ様、お止まり下さい」
侍女さん達が扉へと歩き出した私を止めようと近づいてきます。
侍女さん達とはいっても王宮勤めをされているのだから、下級貴族の私より、よっぽど爵位は高いと思います。そんな人達の言うことに反発するなど、普段だったらガクブルものです。ですが昨晩からのあれこれで、礼儀も行儀も私の中から飛んで行ってしまっています。
侍女さん達をかいくぐり、扉に手をかけようとした時、扉が自動でこちら側に開きました。思わず低い鼻をもっと低くするところでした。
「失礼いたします。エルリーナ様に王太子殿下よりの贈り物をお持ちしました」
扉を開けたのは煌びやかなお仕着せを着た年配の男性。
男性の合図により、固まる私の横を、様々な箱や花籠を持った侍従らしき人達が入室してきました。そして部屋の一角に、贈り物を積み上げると、一礼して部屋から出ていきました。
さすが王宮勤め、流れるような動作です。
はっ! 驚きに固まってしまっていました。侍従さん達と一緒に部屋から出たらよかったのに、私のバカバカ。
「エルリーナ様、ごらん下さいな。みごとな薔薇の花ですわ」
「こちらはチョコレートですわね。まあっ、これはなかなか手に入らない王都一の人気店の物ですわ」
「きゃあ! なんて美しいネックレスでしょう。エルリーナ様、どうぞ着けてみて下さい」
侍女さん達が贈り物を整理しながら興奮ぎみにキャッキャッ言っています。私に話を振らないで下さい。
私関係ないですし。王太子殿下から物なんか貰いたくないですし。
大小様々の箱は、何箱あるか分からないぐらいあって山積みだし、花も多すぎ。様々な花の匂いが混ざり合って、いい匂いすぎて逆に気分が悪くなりそう。
私が強欲さんで、全部貰うっていったら一体いくらになるのやら。
もし税金だったら王太子殿下を絶対殴る。
侍女さん達が贈り物の箱に気を取られている隙に、これ幸いと扉から出ることにします。
一気に加速して扉から飛び出すと、ゴツイ人にぶつかりました。
痛い! せっかく守った鼻が、結局より低くなってしまいました。
私がぶつかったのは、扉の脇に直立不動で立っていた、見上げるほどにデカい騎士様のようでした。扉の反対側の端にも、もう1人立っています。
部屋の中にはいなかったので気づきませんでしたが、この部屋を二人もの騎士様が警備したようです。
私はあることに気づいて血が下がっていきます。
この人達、ずっと警備していたの? 警備っていったら、時間関係ないよね。24時間だよね。
もしかしてだけど……。
私の勘違いならいいんだけど……。
もしや、もしや昨夜から居た? ずっと居た?
もしかして、もしかしてだけど、王太子殿下とのあれやこれやの声が聞こえてた?
私の声が聞こえてた?
ぎぃやぁ~!!
死ぬ。私死ぬ。恥ずかしくて死んでしまう!
「エルリーナ様っ。お戻りくださいっ!」
部屋の中から焦った侍女さんの声が聞こえてきます。
ああ、逃げなきゃ。出ていかなきゃならないのに、余りの衝撃に、へたり込みそうになってしまいました。
私は動きが止まっていたのでしょう、騎士様が侍女さん達の声を聞き、私の腕を取ると部屋へと押し戻しました。
態度や接し方は礼義正しいのですが、問答無用です。そのうえ無口です。
恥ずかしくて騎士様のお顔を見ることはできなかったので、却ってありがたかったです。
部屋に戻されると何人もの侍女さん達によってテーブルに戻され、朝食を食べるように促されました。仕方なく、というかお腹はすいていたので美味しく頂きました。
その後、全身くまなく採寸され、侍女さん達が部屋から出ていくと、朝なのに疲れまくっていました。
部屋から出られません。