●貧乏男爵令嬢は前世持ち ~なんだか王太子殿下に執着されてるみたいなんですけど、なんとか逃げ切ります~●

10 ― エルリーナ行動する

王宮のゴージャスな部屋に監禁中のエルリーナです。
すでに缶詰にされて5日が過ぎました。
あれから王太子殿下には会っておりません。
ほったらかしです。放置のままです。なぜ私はここにいるのでしょうか? 意味が分かりません。

侍女さん達は、甲斐甲斐しくお世話をしてくれますが、こちらから話しかけても返事はしてくれません。もちろん質問に答えてはくれません。
逃げ出そうと侍女さんの手をかいくぐり、扉を開けることに成功しても、扉の外で騎士様ズが仁王立ちしており、また部屋の中に戻されてしまいます。
私の中に徐々にマグマが溜まっていくのが分かります。

そして音沙汰の無い王太子殿下からは、贈り物が届けられてきます。毎日どころか日に何度も。それに量も多く、贈り物を突っ込んでいる部屋から溢れ出そうになっています。
それなのに王太子殿下は一瞬たりとも現れません。
知らん顔なのです。
私を部屋に詰め込んだままなのも、大量の贈り物の意味も分かりません。

いいですよね。そろそろ怒っちゃってもいいですよね。
まあ、王太子殿下から御無体なことをされた時点で怒ってはいるんですけどね。
王家から何をされたって“泣き寝入り”しかないのは分かっています。私の純潔なんて、なんの価値もないことも分かっていますよ。それでも私も人の子です。やはり怒りを抑えることはできません。

怒り最高潮のままに私は行動を起こすことにしました。
計画はこうです。
まず侍女さんが1人の時を狙います。
私のお世話をしてもらっているといっても、着替えや身の周りのことは自分でさっさとやってしまいますし、食事の準備も出来上がった料理を運んで並べるだけです。
基本侍女さんが複数で行う仕事量ではないのです。
ですので、侍女さんが1人の時があるのです。

私は侍女さんを襲います。
うふふふ。こう見えても田舎者。腕っ節と粗雑さは折り紙つきです。
あっという間の早技ですよ。
まず、声を出してほしくないので猿ぐつわをかませます。そのためにシーツを裂いて紐を何本も作っておきました。準備万端です。
次に両手両足をしばり動けなくします。

あまりの驚きに目を見開く侍女さんに謝った後、服を脱がせます。
侍女さん達は決まったお仕着せを着ていますので、それをペロンと脱がせて私が着ます。
下着姿になった侍女さんは掛布団でくるんで肌は見せないように配慮します。まだうら若いお嬢さんですからね。

予想通り、地味な容姿の私に侍女服はとても似合います。
この服を着るために生まれてきたのかと思えるぐらいマッチしています。
貴族の気品とか気高さなんかはカケラも感じさせないザ・侍女の出来上がりです。ただ私のお世話をしてくれている侍女さん達とは違い、下級侍女にしか見えませんけど。

むーむー唸っている下着姿の侍女さんに再び謝ると、寝室の扉を閉めます。そして私は堂々と扉を開け廊下へと出ます。
たっまーに逃げ出して騎士様ズから部屋に押し込められることはありますが、基本部屋から出ることがない私は、騎士様ズと会うことはありません。
交流の無い騎士様ズの顔を私は知りません。ということは、騎士様ズも私の顔を知らないということです。
本日当番のお二人は初見のようです。
私が部屋から出てきても、まさか護衛対象の相手が侍女として出てくるとは思っていないようです。

「お疲れ様で~す」
挨拶するも、微動だにしない騎士様ズからはスルーされました。

私はそのまま廊下をずんずんと歩いて進みます。堂々としたものです。
ビバ侍女服。ビバ普通顔。
侍女は天職かもしれません。
自分の目立たず地味な顔立ちを今日ほど誇らしく思ったことはありません。
誰一人からも声をかけられることなく私は王宮から脱出することに成功したのでした。