●貧乏男爵令嬢は前世持ち ~なんだか王太子殿下に執着されてるみたいなんですけど、なんとか逃げ切ります~●

3 ― 王太子殿下は見つけてしまった(1/2)

シエルシャ国は大陸の南東部に広がる広大な国で、建国500年を過ぎてなお、盤石な王制を続けている。
そのシエルシャ国の第一王子であるライオネルは優秀な王子であった。
容姿は整っており、体形もスラリとした長身で頭の回転も速く、外交もそつなくこなしている。
25歳の今、正妃こそいないが、側妃が2人、愛妾が3人いる。
全てが政略的にいつの間にか自分の後宮に入っていた者達であり、愛情や執着など皆無といっていい。というか関心は一つもない。
そんな女性たちの間に子どもが生まれるはずもなく、王太子という立場だが、1人の後継者も生まれていない。
周りはうるさくせっつくが、女の相手をしているより、公務に向き合う方がよっぽど有意義だと思え、後宮への足は遠ざかっている。

そして今、ライオネルは憂鬱な気分に陥っていた。
今日開かれる王家主宰のパーティーで、新たに側妃を1人娶れといわれているのだ。
デビュタントを本日迎える令嬢の中に、筆頭公爵家の長女がいるらしく、王家主宰のパーティーは、体の言いお見合いの場になっている。
世継ぎが生まれていないのが表向きの言い訳だが、自分達の地位固めと国政への口出しの材料として、自分の娘を後宮に押し込みたいのは見え見えである。
10歳も年下の子どもを妃に迎えろとは、呆れてものも言えない。

「パーティーなんぞ出たくない……」
「王太子様も大変だな」
ライオネルの独り言に返事があり、そちらに顔を向けると、側近の一人であるガイアス=シーサイスがニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながらこちらを見ている。

ガイアスは宰相の孫にあたり、自分の側近となるべく幼少の頃より一緒に過ごしている。
臣下というより、親友という立ち位置で気安く接してくる貴重な人物だ。
周りに人がいない時限定だが。

「今度の公爵家の令嬢は美人らしいぞ。性格はきっついらしいけどな。あの狸公爵の歳をとってからの1人娘だから、蝶よ花よと甘やかされてきたんだろう」
ライオネルが見向きもしない後宮は、現在は側妃と愛妃がバトルを繰り広げる場となっているらしい。
ここに強いバックボーンを持った公爵令嬢が参加すれば、いったいどうなることか。
ライオネルは考えただけで頭が痛くなってしまった。

「お前が早く子どもを作って、子どもを産んだ女を正妃に据えりゃあ、後宮も落ち着くだろうさ」
「簡単に言うなよ……。あの女達を相手にしたいやつがいるのか」
「えー、見る分には皆美人揃いだから、やるだけやるにはいいじゃないか」
ガイアスのあっけらかんとした物言いに、ライオネルはがっくりと肩を落とす。

自分の地位と利益と実家のことしか考えていないような女を、なぜ相手にしないといけないのか。
子どもを産ませるだけの相手と割り切るとしても、正妃になると色々と公務に関わってくることになる。
そもそも正妃とは手を取り合い共に進んでいきたい。互いに支え合う関係でいたい。
こんなことを言うとロマンチストと笑われるが、その思いは年々強くなっていく。

「殿下、そろそろ準備のお時間です」
ノックの音と共に侍従が入室してきた。パーティー用の準備に取り掛かる時間のようだ。