4 ― ガイアス様がやって来た
がくぶるでエルシュワ子爵様の御屋敷に戻ってきた私です。
王宮怖い。都会怖い。早くお家に帰りたい。未だに衝撃が治まってはおりません。
同じ馬車で帰って来たエルシュワ子爵様は、なんとも言えない変な顔をされていましたが、怒られたり、なじられたりはされておりませんので、ご迷惑をかけてはいないのかな? っと、自分に都合のいい方へと考えています。
本来なら明日は1日王都観光をして、次の日に領地に帰ろうと予定を立てていましたが、出来ればすぐにでも帰りたい気持ちです。
エルシュワ子爵様にお借りしている、自室の3倍は美しく広いお部屋でうだうだと考え込んでいると、ノックとともにララが顔を出しました。
「お嬢様、王宮より使者の方がいらしています」
「マジでっ!!」
早いっ、早いわよっ。帰ってきたばっかじゃない。もう王宮から使者の方がいらしたっていうことは、私捕まるの? 逮捕なの? 地下牢なの?
「いーやーーーっ!!」
「お嬢様、使者の方を待たせるわけにはいきません。騒いでいないで早く来てください」
「ララっ、あなたとはもう二度と会えなくなるかもしれない。あなたには良くしてもらっていたのに、こんなに急に別れなければならなくなるなんてっ。ああっ、お父様とお母様にはエルリーナは、お二人のことを愛していましたと伝えて頂戴」
「いったい何を王宮でやらかしてきたんですか。チャッチャと来てください。」
いやいやと駄々をこねる私の首根っこを掴むようにしてララが応接室へと連れて行く。
一言言わせていただくわ。侍女としてその態度はどうなのよ。
応接間にはイケメンがいました。年は20代半ば? 後半? 服装が上等ですし、エルシュワ子爵様の態度から、若いのに偉い人だと分かります。
おずおずと部屋へ入っていき淑女の礼をとると、イケメンはさわやかに笑いながら、着席を促します。
「私は王室付きの文官をしているガイアス=シーサイスといいます。さっそくですが、エルリーナ=コルストル男爵令嬢、あなたは王宮の成人のパーティーで、成人の認定証を受け取りましたか?」
ガイアス様の言葉に私は凍りつきました。
ダンスの後に国王様御自ら渡して下さる『成人の認定証』。これを受け取るために遠路はるばる王都までやってきたのです。
それなのに王太子殿下との、怖ろしいダンスのせいで、うっかりどころか今まで存在すらも忘れていました。
これが無いと結婚できません。いや、結婚相手はまだ決まっていないんですが。いつかは結婚したいのです。
「申し訳ありません。頂くのを忘れておりましたっ」
こめつきバッタのように頭を下げます。
「ガイアス様が届けてくださったのですか?」
眉を八の時にしたエルシュワ子爵様が聞いてくれます。
好意で泊まらせている娘が色々やらかしているのを心配しているのでしょう。
なんせ、偉そうな方を宅配便として使ってしまうのですから、恐れ多いことです。
「いいえ、認定証は陛下より直接下賜していただくのが決まり。私がお渡しするわけにはいきません」
はい、血の気が引きました。
私は一生、成人できないのでしょうか? それとも次の王宮パーティーまで待つのでしょうか?
次の王宮パーティーは、たぶん来月。それまで王都に滞在する経費を考えると、領地に帰った時、お父様に首を絞められるのは確実です。
それに、いくら来月王宮のパーティーがあるとはいえ、そこに参加できるのか分かりませんし、陛下にお会いできることはないでしょう。
「というわけで、エルリーナ=コルストル男爵令嬢。明日、王宮へお越しください」
ガイサス様はニッコリと笑顔です。
イケメンのスマイルをこれ程憎いと思ったことはありません。
二度と行きたくない王宮。怖ろしい王宮。
「いえ、あの……」
貴族の令嬢としては礼儀のなっていない態度ですが『はい、御伺いします』とは、とても即答できません。口ごもってしまいました。
王宮怖い……。本当は王太子殿下が怖いんです。
「明日、迎えの馬車を寄こしましょう。陛下もご多忙の身。夕方頃にいらしてください」
ガイアス様はそれだけ仰ると、さっさと帰ってしまわれました。
偉そうな人なので、こんな田舎の令嬢に構っている暇はないのでしょう。
問答無用です。
明日の王都観光は無くなりました。いえ、行く気はなかったんですが。
エルシュワ子爵様が何か言いたげな顔をされていますが、怖くて話しかけることができませんでした。
私は無事に家に帰ることができるのでしょうか。
※ ガイアス様とエルシュワ子爵様は色々なことをエルリーナちゃんが来るまでに話しています。ええ、色々と。
ガイアス様が王太子殿下の名代(みょうだい)できていることも分かっています。
エルリーナちゃん1人が蚊帳の外です。